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技術資料
No.T1110 | 2011.11.04

多周波数粘弾性解析 合成波による評価(2)

概要

固体粘弾性測定を合成波で行うと、通常の測定より多くの情報を得ることができます。今回は、ポリオレフィンの合成波測定結果および、これを周波数分散のデータに換算した結果をご紹介します。

分析事例の紹介

図1に高密度ポリエチレン(HDPE)の6周波数の合成波による測定結果を示しました。弾性率(E‘、E”)および損失正接(tanδ)を縦軸に、温度(Temp)を横軸に片対数プロットをしました。-120℃および60℃近辺のtanδにピークがみられ、緩和があることがわかります。このデータを用い、時間-温度換算則が成り立つとして重ね合わせを実施し、周波数分散のデータへ換算しました。その結果を図2に示しました。図2の横軸は周波数(f)と時間-温度換算則から求めたシフトファクター(aT)を掛けた値を対数で表したものです。

図1の-120℃、60℃付近の緩和が、それぞれ図2中に示した①、②の緩和と対応します。図2から①の位置に現れた緩和は重ね合わせができており、温度-時間換算則が成立していることが分ります。この運動はポリエチレン鎖の局所運動に対応すると考えられています。
一方、②の位置に現れた緩和については重ね合わせができていません。ポリエチレン単結晶を用いた検討から、この緩和は結晶緩和に相当することが知られています1)。低温で剛体として振舞っていた結晶は、この温度領域で柔らかくなり、粘弾性的に振舞います。測定に用いたHDPEは、結晶/非晶の混合物と見なせます。混合物の各成分が異なる温度依存性を示す場合、重ね合わせができません。すなわち、この温度領域では、非晶成分には変化が無いものの、結晶成分のみ軟化し、熱によって構造が変化し始めている、ということができます。
このように、合成波測定を行うことによって、構造変化に関する情報を得ることができます。
同様の検討を、ホモポリプロピレン(HPP)に適用しました。その結果を図3、4に示しました。

HDPEと同様、二つの緩和(③、④)が現れましたが、緩和の形状はHDPEとは異なっています。しかし、HDPEの結果から、重ね合わせのできない緩和(④)が結晶緩和と関係することを類推することができます。

まとめ

固体粘弾性測定を合成波で測定すると、得られる情報量が多くなります。本技術資料のように、単純に重ね合わせが可能か、否か、という解析でも、構造変化の有無について、情報を得ることができます。
また、本技術資料では重ね合わせた結果について紹介しましたが、この際に得られるシフト量から活性化エネルギーを評価する方法、特定の緩和に着目して活性化エネルギーを評価する方法など、様々な評価に利用することができます。

1)Kajiyama T,et.al.,J.Macromol Sci Phys,B7,583(1973)

 

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