概要
高分子材料の光照射による劣化は試料表面から生じるため、試料の表面と内部で劣化の状態が異なります。従って、劣化による濡れ性などの表面特性変化を議論する場合では、試料の表面付近の状態を把握することが重要となります。
本報告では表面付近の劣化状態評価の一例として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)成型品表面をサンプリングして、GPC法により分子量測定を行った結果を紹介します。
分析事例
PPSが空気中で光劣化すると、水酸基等の親水性官能基を持つ構造が生成されるとともに、分子鎖の切断や架橋が起こります。
ここでは、耐候性試験により光劣化させたPPSについて、表面近傍をスライスして採取し、GPC法によって分子量測定を行った内容を紹介します。
サンプル
ポリフェニレンサルファイド (PPS) 1mm板 (市場入手品) |
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耐候性試験
サンシャインウェザー試験 |
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ブラックパネル温度 : 63±3℃ |
GPC分析
装置 | 超高温GPC SSC-7110(センシュー科学製) |
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カラム | TSKgel GMHHR-H(S)HT(東ソー製7.8mmI.D.×30cm)×2本 |
溶離液 | 1-クロロナフタレン |
測定温度 | 210℃ |
結果
光照射面について、水との接触角を評価した結果を図1に示します。図1より、光照射時間が長くなるにつれて接触角が低下することが確認されました。接触角の低下は、表面の親水性の増加を意味しており、光劣化の進行によって親水性官能基が増大していることが確認されました。
光照射面の表面付近(100µm以内)をサンプリングして分子量測定を行った結果を図2に示します。
図2より、光照射時間が長くなるにつれて低分子量成分が増大していることが示されます。これは、酸化劣化によって分子鎖が切断したためであると考えられます。
光照射時間に対するMwとMzの変化を、図3に示します。照射時間が長くなるにつれてMwが減少する一方、Mzは増大しました。Mzは高分子量成分を強く反映した分子量であることから、酸化劣化によって分子鎖の架橋が進んだだめに、高分子量成分が増加したと考えられます。[図2(a)]。
まとめ
材料表面の劣化状態を評価する手法の一例として、接触角による濡れ性評価と表面近傍の分子量測定について紹介しました。接触角測定では、材料の劣化による表面の親水性の変化を、分子量測定では光酸化による分子鎖の切断や架橋を評価することができます。
材料キーワード : GPC、サンシャインウェザー試験、劣化評価