ホームchevron_right技術資料一覧chevron_right材料物性chevron_right粘度chevron_right[基礎講座] 高分子レオロジー入門 第2回
技術資料
No.T1709 | 2017.06.01

[基礎講座] 高分子レオロジー入門 第2回

概要

第二回では評価する手段としてのレオロジーが重要である理由と解析での重要なポイントを解説します。

2. 評価する手段としてのレオロジーが重要である理由

高分子(ポリマー、プラスチックス、合成樹脂)材料は、様々なサイズの構造や添加物で構成されています。大きなものでは数メートルに及ぶものから、小さなものではナノメートル程度の範囲に及びます。しかし、日常生活で目に触れるようなPETボトルやファイリングシートなどで、トラブルがあった場合、図3に見るように、構造の中の一部に焦点を当ててみている場合がほとんどです。したがって、木を見て森を見ないということは往々にして起こり得ます。ある程度全体的な挙動を見るためは、全体に刺激を与えて応答を見るやり方が良いと思われます。その方法が粘弾性です。工業的に製造されたコンパウンドのガラス転移点などの熱特性を調べても、少量の試料しか必要としないため、かえってサンプリングごとに安定した測定結果を得ることが難しいものです。これらの場合、図4のようにある試験片全体を変形させて調べる粘弾性的な方法が、試験片全体のガラス転移点のような熱物性を調べることに適しています。この点が、材料の解析や分析の手段は数えきれないほどある中で、あえて粘弾性を評価することを選ぶ意味があります。

3. レオロジーの解析での重要なポイント:温度と時間及び解析の本質を表す量(不変量)

3.1. 温度と時間

レオロジーの解析では、図5に示したように、力と変形、力と時間・温度、変形と時間・温度、力と変形と温度時間の関係がキーポイントです。ここで時間と温度を一括りとしています。このことには意味があります。ではどんな意味があるのでしょうか。結構重要ですので、解説したいと思います。
まず温度とはアボガドロ数程度の粒子が運動している際に、現れるパラメーターです。そして、温度が高い場合には激しく運動していること、温度が低い場合には運動が緩慢であることを示しています。同じような運動をしていると考えた場合、温度の高い状態では時間の経過が早いと考えることができます。そして、温度が低い場合は逆に時間の経過が遅いと考えることができます。図6に示したように、時間を遅くスローモーションにしてみると案外と同じ動きをしていると考えることが単純であると言えます。
言い換えると時間と温度はある場合は換算可能な状態が一般的と考えることになります。見た目の動きの速さは違うのだけれども、夫々が経験することは案外同じだということを意味しているわけです。

温度が高い状態での測定は速い速度で測定、温度が低い状態での測定は遅い速度での測定と考えて、各々の時間尺度を調整すると、粘弾性のパラメーターの速度依存性が一致することが、精緻な実験結果によって確立されています。レオロジーでは、このような温度と時間(速度)との換算が可能である場合に“熱レオロジー的に単純”と表現します。
ここでは、時間と速度ないしは速さを同等に扱っています。ある距離Xを時間で動いた時の速度(速さ)は、

 

という関係があります。つまり、速さと時間は反比例の関係があり、同じ移動距離を考えている場合、速さと時間は同義となります。

3.2. 時間について

レオロジーにおいて時間や速度を大事にするのは、物体が流れるかどうかを実験的に証明するためには、どれだけ根気よく観察できるかに依っているからです。普通の人間の感覚では、大地は流れない、窓ガラスのガラスは流れないと考えています。しかし、地質学的な時間スケールや考古学的な時間スケールでは大陸は地球上を流れ、窓ガラスのガラスも地表に近い部分が厚くなっています。そういった観点で、レオロジーの判断の基準になる時間や速度は観測する人間の感覚と密接なつながりがあります。
例えば、人間の寿命は高々120年です。
 120年×365日×24時間×60分×60秒= 3,784,320,000 = 37億8432万秒
です。約109秒の時間です。この人間の寿命から考えた時間感覚で考えて、流れていないとか、変形していないとか、いう判断をしていることになろうかと思います。

3.3. 座標によらない重要な量 不変量

レオロジーを整理するうえで、また、物事の本質を見るうえで、考え方が異なっても、あるいは川の流れの右岸にいても左岸にいても、列車の上りホームにいても下りホームにいても、起こっている現象、川の流れ、列車の進行は同じです。すなわち立ち位置(座標軸)が異なっても、物事の本質を見る意味で変わらない量があります。そのことを理解することが重要です。特にややこしい理論を理解するうえでは重要な鞍点になります。
科学史の著書、例えば、中山茂の著書などを読むと、星の動きを説明するのに、天動説は問題なく再現していた言うことです。現代の天文学は地動説に近い形で構成されています。地上で暮らす上で必要な星の動き自体はどちらでも計算できることを意味します。このことは座標軸の原点の置き方によらず、変わらない本質があるということを示しています。

図7. 物事の本質について 星や太陽の動き
地球を中心にして考えても、太陽を中心に考えても、本質は変わらない。

レオロジーを考えるときの本質は、図8に示したように、「体積」、「表面積」、「長さ」の三つのパラメーターになります。これらに対する、変化を考えれば良いわけです。レオロジーで色々と複雑な式が出てくるのは、人間目線の座標軸から、本質を見るための座標軸に変更することが理由の一つです。
高分子材料の場合、高圧・高速の加工を除けば、変形によって体積が変わることは稀です。したがって、長さと面積に関するパラメーターが重要であることになります。

図8 レオロジー的変化において座標によらない重要な量 不変量

3.4. 対数を使う意味

レオロジーを取り扱う際にlogすなわち対数で表現するのが普通です。しかし、対数がわかりにくい方は多いと思います。対数を使う理由を示し、対数への嫌悪感を少しでも減らすことを目的にこの項を付け加えました。
高分子加工等の産業では、人間の感覚を頼りに技術(技能)を発展させてきました。この人間の感覚は指数や対数と関係します。その一例として、GDPなどの成長率を考えてみます。ある国のGDPの成長率が7%から低い値になると景気が悪くなるという新聞記事を見たことがあると思います。このことがどのような状態であるか、図9に示してみました。毎年毎年と前の年から図9の左図に示す様な増え方をすると成長が安定していると新聞紙上でも報道されます。図9の右図に示す様な状態では増えてはいるのですが、成長が落ちたと報道され、実際に株価は下がります。

図9. 人間の感覚とGDPの成長率

左のようにGDPが10円、20円、40円、80円となると成長が安定していると論評されます。右のようにGDPが10円、20円、30円、40円と増えると成長率が悪くなった、景気が悪くなったと言われます。粘弾性の場合も、人の感覚と関連しており、同じような理解の仕方が感覚と合いやすくなります。
図9の状態をグラフに示したのが図10です。普通の数字1、2、3、4で縦軸を示すと図9の左側のようになります。どんどんエスカレートしているようになり、感覚と異なってしまいます。そこで、縦軸を対数化して、1、10、100、1000を等間隔にしてしまい、無理やり直線的な安定な成長をしているようなグラフにすると感覚的な理解と符合するようになります。(感覚というよりも感情的な理解といった方が良いかもしれません。)

図10. 図9の様子をグラフ化した結果

年数に対してGDPをプロットしています。右の図では左の図のGDPを対数化して示しています。

レオロジーで扱う現象も同じような状態で理解されるため対数で表記することが普通になります。
今、説明した例では、時間は対数にしませんでした。しかし、ビデオの撮影で二倍速、三倍速という表現があるように、流れを問題にするときにこの何倍速という感覚と同じで、時間や速度を10倍毎に1、10、100を等間隔にした対数表記の方が、短時間(早い速さ)の現象や長時間(非常にゆっくりした速度)の現象が解析しやすくなります。例えば、レオロジーのパラメーター、例えば、粘度ηを時間に対してプロットした場合、図11に示したようになるとします。図11では、粘度がある時間に急上昇したように見えます。これを図12のように、時間も粘度ηも対数でプロット、すなわち、両対数プロットすると、粘度には一定の時間依存性を読み取ることができるようになります。このプロットの勾配は、粘度が時間の何乗で大きくなるかを示しています。少し難しい言葉で言うとスケーリング解析です。なお、粘度などのレオロジー特性を表すための物理量やパラメーターについては項を改めて解説します。

                

【技術資料】 [基礎講座] 高分子レオロジー入門 第2回

CONTACTぜひ、お問い合わせください

弊社の分析技術について、納期やコストについてご検討の方は、
お問い合わせフォームより問い合わせください。