概要
ポリマーフィルムなどの接着性(濡れ性)には、表面の極性官能基(水酸基(OH)やカルボキシ基(COOH)等)が関与していると考えられており、その評価は重要です。
ポリマー表面官能基の解析にはESCA(XPS)が適しますが、特定の官能基(水酸基とエーテル基(C-O-C)、カルボキシ基とエステル基(-COO-)など)は通常分析では区別が困難です。弊社では、「気相化学修飾法」を用いて特定の官能基の同定・定量分析を行うことができます。今回は、気相化学修飾ESCAを用いたポリマー中の水酸基およびカルボキシ基の定性・定量分析についてご紹介します。
分析内容
1)水酸基の定性・定量分析
水酸基に無水トリフルオロ酢酸((CF3CO)2O)を反応させることで定性・定量分析が可能です(反応スキーム1)。
C |
O |
F |
|
測定値 |
46.4 |
20.4 |
33.2 |
---|---|---|---|
理論値 |
44.4 |
22.2 |
33.3 |
ポリビニルアルコール(PVA)中の水酸基へ反応させた前後のC1sスペクトルを図1に示します。反応後ではトリフルオロアセチル基由来ピーク(-COO-, -CF3)として水酸基を区別できます。組成分析より、PVAが100%反応した際の理論値と近い値を得ることができました(表1)。本手法により、水酸基の定性・定量分析が可能です。
2)カルボキシ基の定性・定量分析
水酸基と同様、カルボキシ基についてもトリフルオロエタノール(CF3CH2OH)等を反応させて定性・定量分析が可能です(反応スキーム2)。
C |
O |
F |
|
測定値 |
50.3 |
20.4 |
29.3 |
---|---|---|---|
理論値 |
50.0 |
20.0 |
30.0 |
ポリアクリル酸(PAA)中のカルボキシ基へ反応させた前後C1sスペクトルを図2に示します。反応後、トリフルオロエタノール由来ピーク(C-O, CF3)としてカルボキシ基を区別でき、組成分析結果も理論値と整合するため、本手法によりカルボキシ基の定性・定量分析が可能です。
結果
気相化学修飾ESCAによるポリマー表面の官能基(水酸基、カルボキシ基)の解析は、濡れ性を向上させる表面改質処理(プラズマ、オゾン処理等)前後の評価などにも適用することができます。