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技術資料
No.T2105 | 2021.08.11

潤滑膜の分析手法

概要

 モリブデン(Mo)含有潤滑油は自動車エンジンオイルの代表的な摩擦低減剤で、摩擦面に形成される膜成分(潤滑膜)が低摩擦化に寄与します。潤滑膜の元素分布や組成、膜厚等、目的別に各種分析手法をご紹介します【表1】。

【表1】潤滑膜の分析手法

目的

分析手法

技術資料No.

①元素分布

電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)

T2106

透過電子顕微鏡-エネルギー分散型

X線分析器(TEM-EDS)

T2108

②組成、化学種

X線光電子分光法(ESCA, XPS)

T2107

③膜厚、微細構造

透過型電子顕微鏡(TEM)

T2108

④表面粗さ

走査プローブ型顕微鏡(SPM, AFM)

T2109

試料

以下の通り調製した潤滑膜(モデル試料)の分析を実施しました。
Mo摩擦低減剤を含む市販エンジンオイルを金属基板上に塗布
 →摩擦試験(表面温度50℃,試験時間5~180min)【図1】

【図1】 試料外観(デジタルマイクロスコープ像)

①元素分布

 摩擦面内における潤滑膜の元素分布は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)による解析が有効です。また、潤滑膜内部の元素分布は、潤滑膜断面の透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析器(TEM-EDS)による解析が有効です。それぞれMo及びZnやCaなどの添加剤由来元素の存在箇所を評価できます【図2, 3】。

②組成、化学種

 Moを含有する潤滑膜はnm~サブμmオーダーと非常に薄い場合が多く、その組成解析は表面敏感なX線光電子分光法(ESCAまたはXPS)が有用です。さらに、ピーク位置から化学種を同定できるため、Moピークを解析することで低摩擦化因子のMoS21~3)を定量的に評価できます【図4】。

【図4】 潤滑膜のワイドスキャンスペクトル(左)及びMo3dピーク波形分離結果(右)

③膜厚、微細構造

 断面TEMでは潤滑膜の膜厚(nm~サブμmオーダー)も解析可能です。摩擦面上に形成された潤滑膜を可視化して評価できます【図5】。断面TEM像を詳細解析することで低摩擦化に寄与するMoS2層状構造1~3)を評価可能です【図6】。

④表面粗さ

 走査プローブ型顕微鏡(SPMまたはAFM)はnmオーダーの凸凹を解析でき、潤滑膜の表面粗さを評価可能です【図7】。

【図7】 潤滑膜のSPM像及び表面粗さ解析結果(左)、断面プロファイル(右)
* 算術平均粗さ(Ra)

まとめ

 低摩擦化は潤滑膜の様々な構造により発現するため、総合的な解析が重要です。適切な分析手法を用いて摩擦条件や潤滑油の種類が異なる材料を比較することで、低摩擦化に寄与する構造因子解析が可能となります。

引用文献

  • 1)駒場ら:MoDTC添加油の潤滑効果に対する温度の影響,トライボロジスト,62,11 (2017) 35.
  • 2)山田ら:MoDTCの摩擦低減機構,日石三菱レビュー,43,1 (2001) 5.
  • 3)高木:MoS2族の層状構造と摩擦,精密機械,46,11 (1980) 1434.
適用分野
その他無機製品
キーワード
潤滑油、潤滑膜、モリブデン、Mo、MoS2、摩擦、ESCA、XPS、EPMA、TEM、EDS、SPM、AFM、断面

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