概要
FcR-IIIA-NPRカラム(以下、FcRカラム)は、N型糖鎖に起因する抗体Fc領域の構造変化を認識し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性に基づいた抗体の分離が可能です1)。従来法で糖鎖解析を行うには、FcRカラム分取・抗体からの糖鎖切断・誘導体化等の多くの工程を必要とします。さらに、糖鎖の切断を行うため、糖鎖が結合したままのインタクトな状態の抗体は、解析できません。
FcRカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーとインタクトMS解析技術を組み合わせることで、抗体とFcRカラムとの相互作用に基づいたLC分離とMSスペクトルを用いた糖鎖組成の推定を行います(FcR-MS法)。FcR-MS法は、糖鎖が結合した状態の抗体(インタクト抗体)のLC分離及びMS測定ができるため、インタクト抗体のFcRカラムとの相互作用に関わる糖鎖組成が解析可能です(図1)。
(参照 【技術資料T2305】LC-MSによるインタクト抗体の糖鎖組成解析)
試料
市販の抗体医薬品A
手順
市販の抗体医薬品Aを用い、脱塩処理を行ったのち、FcR-MS測定を行いました。
試料由来の多価イオンのマススペクトルをデコンボリューションにより一価へ変換し(図2)、得られた分子量から糖鎖構造の帰属を行いました(表1)。解析ソフトを用いて、抽出イオンクロマトグラムを作成し、各糖鎖組成のクロマトグラムを可視化しました(図3)。
【表1】抗体医薬品Aの糖鎖組成の帰属結果
結果と考察
抗体医薬品Aにおいて、片側のみ糖鎖が結合した抗体、ハイマンノース型糖鎖含有抗体、二分岐型糖鎖含有抗体、シアリル化糖鎖含有抗体の順に溶出が確認されました。二分岐型糖鎖に着目すると、末端のガラクトース(非還元末端ガラクトース)結合量の増加に伴う溶出の遅延が確認されました。これはADCC活性の向上を示しており、ガラクトース残基が多いほど活性が向上するという報告2)と一致しています。
まとめ
FcR-MS法により、抗体とFcRカラムとの相互作用に基づいた糖鎖組成の解析が可能です。本手法は抗体に糖鎖が結合した状態で測定するため、非対称な糖鎖の組み合わせを有する抗体医薬品も評価可能です。
1) 寺尾陽介、山中直紀他、東ソー研究・技術報告第61巻(2017)
2) D. Reusch, M. L. Tejada, Glycobiology, vol.25, no.12 (2015)