概要
エンジニアリングプラスチックの一つである液晶ポリマー(LCP)【図1】に耐光性試験を行い、X線光電子分光法(ESCAまたはXPS)によって劣化(分子切断)で生成した表面水酸基(OH基)の定量事例を紹介します。
分析方法・試料
・装 置 :VersaProbeⅡ(アルバック・ファイ製)
・条 件 :X線源AlKα 、X線照射径1000×300mm
・試 料 :LCP(市販品)
・耐光性試験(UV照射) :
装置 アイスーパーUV(岩崎電機製SUV-W161) メタルハライドランプ方式
照射条件 強度100mW/cm2(波長300~400nm)、時間200hr、温度63℃、湿度50%
結果及び考察
LCPなどのエンジニアリングプラスチックは劣化による構造変化が小さいため、材料の極表面を分析できるESCA(分析深さ数nm)が有用です。UV照射したLCPの表面OH基に着目し、選択的な化学修飾法を組み合わせた化学修飾ESCAによる構造解析を行いました。
1)通常測定
初めに化学修飾していない通常のESCA測定結果を示します【図2】。C1sメインピーク(C-C)に対するC-O及びCOOピーク強度比はUV照射で増加しました。LCP分子鎖の切断によるOH基(末端基由来)の増加が推測されます1, 2)。しかし、ESCAはOHを直接検出できず、生成量は分かりません。
2)化学修飾ESCA
化学修飾ESCAは特定の官能基と選択的に反応する試薬を用いてマーカー元素を導入し、その定量値を官能基量に換算する手法です3~4)。トリフルオロ酢酸による化学修飾をLCPに行い、フッ素をマーカー元素としたOH基の定量を行いました。(R-OH + (CF3CO)2O → R-O-CO-CF3 + HO-CO-CF3↑)。
化学修飾ESCAの測定結果を図3~4に示します。OH基はフッ素のピークとして検出できます。C-Fピーク【図3】及びフッ素のピーク強度【図4】はUV照射で増加し、OH基の生成を確認しました。さらに、化学修飾ESCAではROH(全炭素あたりのOH基の炭素比率)を定量でき、今回のUV照射で約3%の炭素がOH基に構造変化したことが明らかとなりました【表1】 5)。
LCP | ROH(%)* |
---|---|
UV照射前 | < 1 |
UV照射後 | 2.8 |
* 全炭素あたりのOH基の炭素比率
まとめ
ESCAは分析深さ数nmの表面に敏感な分析手法で、エンジニアリングプラスチックなど劣化しにくい材料の構造解析に有用です。化学修飾法を組み合せることで表面官能基の定量評価が可能となります。
化学修飾ESCAを用いてLCPを構造解析した結果、UV照射で生成した表面OH基量(末端基由来と推定)を定量的に評価可能でした。本手法はエンジニアリングプラスチックのほか汎用ポリマーにも適用でき、反応試薬を変えることでOH基以外の官能基も定量できます。
参考文献等
1)Yuxi Liu et al: Polymer Degradation and Stability, 98, 1744 (2013)
2)渡辺ら: エレクトロニクス実装学会誌, 11, 152 (2008)
3)白水ら: 表面化学, 15, 34 (1994)
4)【技術資料T2008】気相化学修飾ESCAを用いたポリマー表面官能基の解析
5)中西ら: プラスチック成形加工学会 第34回年次大会, H-210