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技術資料
No.T2316 | 2023.12.07

高分子レオロジー2

~z平均分子量の影響2 定常状態コンプライアンス~

概要

 高分子レオロジーの基本的なパラメーターである、弾性的性質を表す定常状態コンプライアンスJe0は、分子量に依存せず、分子量分布に依存するとされています。
 本技術資料では、一定ではなく、(Mz/Mw5に依存すると考えられることが最も妥当と思われる結果をご紹介します。通常は考慮されることの少ない、z平均分子量ですが、数平均分子量や重量平均分子量と同じく重要な平均分子量と言えます。

検討

 190℃の高密度ポリエチレンHDPEの定常状態コンプライアンスJe0の測定結果と文献での報告例を用いて、高温GPCを用いて得た分子量に対する依存性を検討しました。

結果

【図1】定常状態コンプライアンスJ<sub>e</sub><sup>0</sup>の重量平均分子量M<sub>w</sub>に対する両対数プロット
【図1】定常状態コンプライアンスJe0の重量平均分子量Mwに対する 両対数プロット 

 図1に定常状態コンプライアンスJe0の重量平均分子量Mwに対する両対数プロットを示しました。非常にばらつきが大きい状態です。図中の赤で塗潰したが工業的に重合されたHDPE、その他の記号が、HDPEあるいはLLDPEを用いて報告された結果です。また、青い破線はCalellaが報告した単分散の1,4重合のポリブタジエンを水添して得た単分散ポリエチレンに関する結果、赤い破線は青い破線の結果を1,4結合の含有率を100%に外挿した場合の結果です。
 分子量分布の影響について調べるために、久米らの結果を用いて、Je0を(Mz/Mw5で除した結果を重量平均分子量Mwに対して両対数プロットした結果を図2に示しました。図1に比べるとばらつきが小さくなることが分かります。定常コンプライアンスJe0は、精度良く測定することが難しいパラメーターです。図2の一部の定常コンプライアンスJe0の値が、単分散ポリエチレンの結果を下回る報告例(□印)では、定常状態に達する前にデータを読み取ったことで低い値が得られたのではないかと考えています。

【図2】 定常状態コンプライアンスJ<sub>e</sub><sup>0</sup>を(Mz/Mw)で除した結果の重量平均分子量M<sub>w</sub>に対する両対数プロット
【図2】 定常状態コンプライアンスJe0を(Mz/Mw)で除した結果の 重量平均分子量Mwに対する両対数プロット

 図1と図2を比較するとJe0を(Mz/Mw5で除した図2の場合が、よりばらつきが少なくなりました。すなわち、Je00が依存する分子量分布は(Mz/Mw5と考えらえることが適切と分かりました。別に提案されている依存性についても検討しましたが、(Mz/Mw5により定常コンプライアンスを除する方法において、ばらつきが最も少なくなることが分かっています。
 高分子の溶融体の溶融物性を解析する際分子量分布として(Mw/Mn)だけでなく、(Mz/Mw)を考慮した方が良いと言えるでしょう。
 なお、測定条件、先行研究などの詳細については、参考文献1)を参照してください。

まとめ

 GPC測定の結果で得られる、z平均分子量は、溶融レオロジーの重要なパラメーターである定常状態コンプライアンスJe0の記述に有用であることが検証できました。零せん断粘度の結果も合わせると高分子の溶融体の溶融物性を解析する際分子量分布として(Mw/Mn)だけでなく、(Mz/Mw)を考慮した方が良いと言えるでしょう。
 なお、本資料の図1及び図2は、日本ゴム協会誌に投稿した結果1から、(一社)日本ゴム協会編集委員会の許諾を得て掲載しました。

参考文献
1) 髙取永一, 日本ゴム協会誌, 95, 266-273 2022Figure 9, 10
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適用分野
プラスチック・ゴム、その他高分子材料
キーワード
ポリエチレン、GPC、分子量、分子量分布、定常状態コンプライアンス

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