概要
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法は、分子の化学構造や運動性、相互作用などを調べる手法で、有機化学をはじめとして高分子化学、生物化学、医学等の広い分野で活用されています。
本資料では緩和(T2)フィルターまたは拡散フィルターを用いた1次元NMR測定により、混合物中の低分子あるいは高分子成分を強調したスペクトルを取得する方法を紹介します。混合試料中の高分子と低分子の識別や定性分析に有用な測定法です。
分析方法・分析装置
分析方法 | 1次元NMR 緩和(T2)フィルター 、拡散フィルター |
分析装置 | 500MHz NMR |
試料
ポリスチレン(1%BHT添加)重クロロホルム溶液
結果
① 緩和(T2)フィルター
緩和(T2)フィルター測定は、NMR信号を任意の時間だけT2緩和(スピン–スピン緩和)させた後にデータを取得する測定法で、T2緩和時間が短い成分ほどピーク強度が低下したスペクトルが得られます。一般的に分子量が大きくなるほどT2緩和時間は短くなるため、低分子を強調したNMRスペクトルを取得可能です。
ポリスチレン(1%BHT添加)の通常の1H NMRと緩和フィルター測定結果を図1に示します。図1より、緩和フィルター測定では、ポリスチレンに埋もれていたBHT由来ピークが検出され同定可能となりました。
② 拡散フィルター
拡散フィルター測定は、1次元のDOSY(Diffusion Ordered SpectroscopY)測定であり、拡散係数の大きい成分ほどピーク強度が低下したスペクトルが得られます。一般的に分子量が小さいほど拡散係数は大きいため、高分子を強調したNMRスペクトルが取得可能です。
ポリスチレン(1%BHT添加)の通常の1H NMRと拡散フィルター測定結果を図2に示します。図2より、拡散フィルター測定では、BHTや溶媒由来のピークが除かれたポリスチレンのみのスペクトルが得られました。
まとめ
緩和(T2)フィルター測定は低分子を強調したNMRスペクトルが得られる測定法であり、ポリマーピークと重複した低分子添加剤の解析等に有効です。一方、拡散フィルター測定は高分子を強調したNMRスペクトルが得られる測定法であり、ポリマー中の低分子不純物の影響を排除したい場合等に有効です。これらのフィルター測定を活用することで混合物試料の複雑なNMRスペクトルが単純化され、解析に有用な情報が得られる場合があります。