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技術資料
No.T2403 | 2024.05.21

NMR応用例

~溶液Pure shift NMR法 PSYCHE~

概要

 核磁気共鳴(Nuclear Magnetic ResonanceNMR)法は、分子の化学構造や運動性、相互作用などを調べる手法で、有機化学をはじめとして高分子化学、生物化学、医学等の広い分野で活用されています。
 本資料では1H NMRのピーク分裂を無くし化学シフトのみのスペクトルを得るPure shift NMR法の代表的な測定法であるPSYCHEと改良法の一つであるSAPPHIRE-PSYCHEを紹介します。ピーク分裂により複雑化して解析困難なスペクトルを単純化することが可能です。

PSYCHE (Pure Shift Yielded by CHirp Excitation)とは

 PSYCHEのパルスシーケンスを図1、データ処理の流れを図2に示します。図1より、PSYCHEではスピン結合によるピーク分裂を無くすためホモデカップリングを行い、“ピーク分裂の無い瞬間(数十ミリ秒)のみNMR信号(FID)を観測します(以下、この部分的な信号をFIDブロックと呼称)。図1中のt1を延ばしながら複数のFIDブロックを取得し、各FIDブロックを結合することでFID全体が得られます(図2)。PSYCHEの欠点として、結合したFIDをフーリエ変換すると結合部の不完全性に起因してピーク周辺にサイドバンドが発生します。
 SAPPHIRE (Sideband Averaging by Periodic PHase Incrementation of Residual J Evolution) –PSYCHEは、PSYCHEFIDブロック幅を変化させながら測定を行うことでサイドバンドを平均化した改良法です。

【図1】PSYCHEのパルスシーケンス

【図1】PSYCHEのパルスシーケンス

【図2】PSYCHEのデータ処理

【図2】PSYCHEのデータ処理

分析方法・分析装置

 分析方法:1H PSYCHE、SAPPHIRE-PSYCHE
 分析装置:700MHz NMR

試料

 L-メントール重クロロホルム溶液

結果

 一般的に1H NMRのピーク分裂からは構造解析に有用な情報が得られますが、対象の化学構造によっては複雑な分裂によりピーク強度が低下しピーク同士の重複を引き起こすため解析の妨害となる場合があります。そのような場合にはPure shift NMR法のPSYCHEが有用です。
 試料の(a) 1H NMR(b) PSYCHEおよび(c) SAPPHIRE-PSYCHEの比較スペクトルを図3に示します。図3より、(b) PSYCHEおよび(c) SAPPHIRE-PSYCHEではピーク分裂の無いスペクトルが得られています。さらに、(c) SAPPHIRE-PSYCHEではサイドバンドの無いきれいなスペクトルを得ることが可能でした。

【図3】試料の(a)1H NMR、(b) PSYCHEおよび(c) SAPPHIRE-PSYCHEの比較スペクトル

【図3】試料の(a)1H NMR(b) PSYCHEおよび(c) SAPPHIRE-PSYCHEの比較スペクトル

まとめ

 Pure shift NMR法の代表例であるPSYCHEはピーク分裂を無くしたNMRスペクトルを取得可能な測定法であり、複雑なピーク分裂を含むスペクトルを単純化して解析を容易にします。改良法であるSAPPHIRE-PSYCHEPSYCHEに特有のサイドバンドを低減したスペクトルを得ることが可能です。

適用分野
有機材料
キーワード
溶液NMR、Pure shift、分子構造解析

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