概要
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法は、分子の化学構造や運動性、相互作用などを調べる手法で、有機化学をはじめとして高分子化学、生物化学、医学等の広い分野で活用されています。
本資料ではNMRスペクトル上で自己拡散係数が得られるDOSY法(T2401参照)のポリマーへの適用事例を紹介します。自己拡散係数は分子量と負の相関を示す(屈曲性高分子の希薄溶液においてD ∝M -0.5~0.6)ことが知られており、DOSYにより共重合体の組成分布(モノマー含有量の分子量依存性)を評価することが可能です。
分析方法・分析装置
分析方法:1H DOSY
分析装置:700MHz NMR
結果
試料の1H DOSY二次元スペクトルを図1(左)に示します。DOSYピークを縦軸(自己拡散係数logD)方向に分割して一次元NMRスペクトルを抽出し(図1右)、Stの芳香環CHとMMAのOCH3ピークの積分比より、それぞれSt含有量を算出しました(表1)。
平均logD [m2/s] | St含有量[mol%] | |
⑨ | -11.50 | 10.7 |
⑧ | -11.34 | 11.8 |
⑦ | -11.19 | 11.9 |
⑥ | -11.03 | 11.7 |
⑤ | -10.87 | 11.2 |
④ | -10.72 | 10.6 |
③ | -10.56 | 9.8 |
② | -10.41 | 8.5 |
① | -10.26 | 6.1 |
次に、図1(左)のStの芳香環CH(青枠、6.8~7.4 ppm)およびMMAのOCH3(赤枠、2.8~3.8 ppm)を抽出して得られた各モノマーの拡散係数分布曲線上に表1のSt含有量をプロットした図を作成し(図2左)、比較のため同一試料の2D-HPLC(二次元HPLC、図2右)の結果と並べて示しました。
DOSYより得られたSt含有量(図2左、黒点)は横軸右方向の低拡散(高分子量)側で増加傾向を示しており、2D-HPLCより得られたSt含有量(図2右、赤線)と類似の結果が得られている事が分かります。
まとめ
二次元NMR DOSY法をポリマーに適用することで、共重合体の組成分布を評価することが可能です。DOSYは2D-HPLCと比べて煩雑な条件検討が不要であり、また、カラム吸着等で測定困難なポリマーにも適用可能です。