概要
界面活性剤は分子内に疎水基と親水基を有し(図1)、水中で油分を包み込み安定化するなどの界面活性作用を示します。疎水基は低極性、親水基は高極性であり、極性の違いで分離を行うHPLCにおいて複雑な分離挙動を示します。本技術資料では、ノニオン系界面活性剤の逆相及びHILICモード※でのHPLC分離挙動についてご紹介します。
※ Hydrophilic Interaction Chromatographyの略であり、親水性相互作用クロマトグラフィーとも呼ばれ、逆相では保持が難しい極性の高い化合物を分析するモードです。アミドカラム等の固定相官能基の極性が高いカラムを用い、親水性相互作用を利用して分離を行います(図2)。
分析方法
ポリオキシエチレンドデシルエーテル(試薬)を溶解、希釈し、逆相及びHILICモードでLC-MS測定を行いました。
分析条件
装置 | LCMS-2050(島津製作所) |
カラム | ODSカラム(逆相)、アミドカラム(HILIC) |
移動相 | 水系/アセトニトリルによるアイソクラティック溶出(逆相) |
カラム温度 | 40℃ |
流速 | 0.6mL/min. |
試料濃度 | 1µg/mL |
イオン化 | 加熱型DUIS、ポジティブモード |
結果
1)逆相モードによるLC-MS測定
逆相モードにおけるポリオキシエチレンドデシルエーテルのトータルイオンクロマトグラム(TIC)を図3に、各ピーク(A~D)のマススペクトルを図4に示します。
- 不純物として含まれるポリエチレングリコール(PEG)は疎水基を持たないため、逆相モードではカラムに保持されず、早い溶出時間に溶出しました(図3、ピークA)。
- 逆相モードでは分離対象の疎水性が大きい程カラムとの相互作用が強くなるため、疎水基(アルキル鎖)の短いC10からアルキル鎖の長いC12、C14の順番に溶出しました(図3、ピークB,C,D)。
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逆相モードでは分離対象の疎水性が大きい程カラムとの相互作用が強くなるため、疎水基(アルキル鎖)の短いC10からアルキル鎖の長いC12、C14の順番に溶出しました(図3、ピークB,C,D)。
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逆相モードでは親水基の分離への影響は小さいため、本分離条件ではポリオキシエチレン鎖長にかかわらずアルキル鎖長が等しい成分は同じ溶出時間に溶出したと考えられました。
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つまり、逆相モードは疎水基(アルキル鎖)の長さで分離するモードと言えます。
2)HILICモードによるLC-MS測定
HILICモードにおけるポリオキシエチレンドデシルエーテルのTICを図5に、各ピーク(イ~ニ)のマススペクトルを図6に示します。
- 逆相モードでは分離対象の疎水性が大きい程カラムとの相互作用が強くなるため、疎水基(アルキル鎖)の短いC10からアルキル鎖の長いC12、C14の順番に溶出しました(図3、ピークB,C,D)。
- つまり、HILICモードは親水基(ポリオキシエチレン鎖)の長さで分離するモードと言えます。
- 図3~6の結果を表1にまとめます。逆相モードは疎水基(アルキル鎖)の長さ、反対にHILICモードは親水基(ポリオキシエチレン鎖)の長さで分離するモードと言えます。
分離モード | 疎水基(アルキル鎖) | 親水基(ポリオキシエチレン鎖) |
逆相 |
‹相互作用あり› アルキル鎖なし(PEG)、C10、C12、C14の順に溶出 |
‹相互作用なし› |
HILIC | ‹相互作用なし› |
‹相互作用あり› 短い成分から溶出 |
- ポリオキシエチレンドデシルエーテルはUV吸収を持たない一方、RI検出器では多成分の一斉分析に有用なグラジエント分析が不可能なため、MS(TIC)による評価が有効です。
まとめ
ノニオン系界面活性剤の逆相及びHILICモードにおける分離挙動をご紹介しました。逆相モードでは主にアルキル鎖長に、HILICモードでは主にポリオキシエチレン鎖長に対応した分離が可能です。適切に分離モードを選択することで、分析の目的に応じた成分分離が達成でき、詳細な定性や定量が可能となります。