概要
ゼオライトには固体酸点として作用する、性質の異なる酸点(ブレンステッド(B)酸点、ルイス(L)酸点)が存在し、ピリジン吸着FT-IR法は各酸点を区別して評価ができる有力な手法です【図1,2】。また、IRスペクトルの4000~3000cm-1には水酸基(-OH)由来のピークが得られることが良く知られています。そこで、ピリジン吸着前後のゼオライト触媒のOH基ピーク変化を測定し、構造解析した事例を紹介します。
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【図1】ピリジン吸着モデル図
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【図2】ピリジン吸着後のFT-IRスペクトル(1600-1400cm-1)
分析方法・分析装置
測定フローを【図3】に示します。まず、試料を真空加熱して吸着水除去した後のIRスペクトル①を測定します(バックグラウンド測定、「ピリジン吸着前」)。その後、測定室にピリジン蒸気を導入して試料に吸着させ、IRスペクトル②(「ピリジン吸着後」)を取得します。
②「ピリジン吸着後」から①「ピリジン吸着前」を差し引くと、ゼオライト触媒のOH基変化の様子を調べることが出来ます。
測定条件
FT-IR装置 | Varian 660-IR |
透過法アタッチメント | マルチモードIRセル |
測定法 | 透過法 |
測定波数範囲 | 4000-400cm-1 |
分解能 | 4cm-1 |
積算回数 | 128回 |
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【図3】ピリジン吸着FT-IR測定フロー
結果
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【図4】②「ピリジン吸着後」と①「ピリジン吸着前」の差スペクトル(4000-3400cm-1)
2種類のゼオライト触媒(A,B)の測定結果を【図4】に示します。
ゼオライト触媒では、ピーク位置から各種OH基の区別が出来ます。
(約3780cm-1:骨格外Al-OH、約3740cm-1:Si-OH、約3600cm-1:B酸点(OH))
【図4】より、これらのピークが負の方向に観測されたため、ピリジン吸着前後でOH基が減少していることが分かります。また、ゼオライトAはBに比べてB酸点(OH)の減少が大きく、【図2】の結果(B酸点に吸着したピリジンが多い)とも整合しています。
一方、ゼオライトBは高波数側(約3780cm-1)の骨格外Al-OHの減少が明確に見られています。これは、ゼオライト構造から脱離したAl成分(脱Al成分)にもピリジン分子が吸着している可能性を示しています。このような成分は、ゼオライト構造(細孔径等)と無関係のため、触媒性能にあまり寄与しない酸点であると思われます。
このように、ピリジン吸着前後のOH基のピーク挙動を解析すると、吸着サイトに関する情報が得られます。