概要
電池材料の新規開発や劣化要因解析のため、充放電時のリアルタイム構造解析が求められています。ここでは、リチウムイオン二次電池(LIB)の正極材料として使用されるLiMn2O4(LMO)について、充放電に伴う構造変化を追跡した事例を紹介致します。
分析方法
大気非暴露環境であるArグローブボックス内で電池セル(図1)を組立て、装置へマウントした様子を図2に示します。その後、充放電装置とXRD装置を同期し、電池を充放電しながら正極材(LMO)のXRD測定を行いました。

【図1】電池セルの構成

【図2】電池セルアタッチメント付属のXRD装置
結果
得られた充放電プロファイルを図3に、XRDチャート(2Dイメージ)を図4に示します。図4の横軸は2θ(deg.)、縦軸は時間を表しており、明るさがピーク強度に相当します。上段の赤矢印で示した位置にLMO由来の回折線が観測されています。

【図3】充放電チャート(●でXRD測定)

【図4】 LMO正極のXRDチャート 2Dイメージ図
(明るさはピーク強度)
図4から、LMO由来の回折線は、充電時には高角側へ、放電時には低角側へ波打つようにシフトしていることが分かります。これは、充放電によりLMOの結晶格子が収縮と膨張を繰り返しているためです。
XRDパターンをリートベルト解析し、LMOの格子定数を求めた結果を図5に示します。今回得られた格子定数の変化は、充放電時のリチウムイオンの挙動を反映しており、充電でリチウムイオンがLMOから脱離(格子の収縮)し、放電で挿入(格子の膨張)されると考えられます(図6)。

【図5】LMOの格子定数変化

【図6】LMOの結晶構造1)
1) K. Momma and F. Izumi, J. Appl. Crystallogr. , 44 , 1272–1276 (2011).
まとめ
専用の充放電セルを用いた二次電池のin-situ XRDにより、電極材料の結晶相や格子定数の変化を直接追跡することが可能です。