概要
加熱溶融顕微鏡のその場観察によって、ポリエチレンの小粒子が溶媒に溶解していく過程を観察した事例をご紹介します。
物を溶かす、という作業は、加工や評価など、様々な目的で、日常的に行われていますが、溶解の瞬間を直接観察する事はあまりないと思われます。
他方、溶解度は溶解性の指標として定量的な表現ですが、溶けやすさ、は表現しにくい性質です。
同じ材料であっても、さっと溶解したり、なかなか溶解しなかったり、溶解挙動は大きく異なる事があります。このような動的な情報(溶解速度など)は、溶解挙動をその場観察することで直感的な情報を得る事が出来ると期待されます。
試料および実験条件
実験1:分子量の影響 |
実験2:溶媒の影響(実験1との比較) |
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試料 |
PE1(低分子量)、PE2(高分子量) |
PE2(実験1と同じ試料) |
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溶媒 |
流動パラフィン |
デカリン |
温度 |
室温-(30℃/分)-160℃-(保持) |
室温-(12℃/分)-135℃-(保持) |
観察モード |
透過(偏光なし) |
透過(クロス二コル) |
溶融顕微鏡 : ECLIPSE LV100NPOL(Nikon 製)
加 熱 装 置 : 顕微鏡用試料加熱ステージ Linkam (ジャパンハイテック株式会社製)
結果
実験1の結果を図1に示しました。左の列が低分子量PE、右の列が高分子量PEの観察結果です。低分子量PEは155℃付近で粒子が明るくなり結晶が融解したことが示唆されます。一方、高分子量PEは同じ温度では変化がありません。160℃到達後、低分子量PEは40秒頃から、高分子量PEは60秒頃から粒子周辺の輪郭が不明瞭になり溶媒に溶解したと推察されました。このように溶解挙動観察の結果、二つの試料の溶解挙動が異なることが分かりました。差が生じた理由は二つの試料の分子量が異なるためだと考えられます。
実験2の結果を図2に示しました。本実験は実験1とは異なりクロスニコル下で観察することで結晶成分を明るく表示させました。実験2では実験1よりも低い135℃到達後40秒頃から粒子が黒くなりました。これは、結晶が融解したことを示唆しています(結晶が融解すると位相差が消失し、光が透過しなくなる。)。実験2では実験1と異なり、結晶融解直後から粒子が大きく膨潤していく様子が観察されました。このように、同じ試料を用いても溶媒の違いによって溶解挙動が異なる事が分かりました。差が生じた理由は、ポリエチレンと溶媒との相性の違い(溶解性)が影響している可能性が考えられます。
まとめ
溶媒に溶かす、という基本的な現象を、その場観察することにより、試料の性質の違い(本技術資料の場合は分子量の違い)や溶剤の違いによる挙動変化を直感的にとらえる事が出来ます。