概要
ウレタン樹脂の物性発現因子の一つに、硬化剤の分散状態があげられます。高感度な軽元素分布解析が可能な電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)の測定条件を最適化し、硬化剤由来の窒素(N)の分布を解析した事例を紹介します。
分析装置と試料
- 装 置 :FE-EPMA [日本電子製JXA-iHP200F]
観察倍率 5,000倍、検出可能元素 ホウ素(B)~ウラン(U)
- 試 料 :ウレタン樹脂
結果及び考察
1)軽元素用分光結晶による高感度化
EPMAは、試料に電子線を照射して発生する特性X線を分光結晶で回折させて取り込みます。弊社装置は異なる分光結晶を10個搭載し、そのうち2個が軽元素の検出に優れた仕様となっています。軽元素用の分光結晶で窒素(N)のスペクトルを取得した結果、汎用的な分光結晶と比べて約7倍のピーク強度が得られました【図1】。弊社装置を用いることで、数百ppmレベルの微量な窒素(N)の分布解析が可能となります。
2)ウレタン樹脂の解析
(1)測定条件検討
数十µm範囲の高倍率測定では電子線が局所的に照射されて熱が発生し、特に高分子材料は試料が変形する場合があります。汎用条件でウレタン樹脂を測定した結果、熱による試料変形(表面凸凹)の影響で窒素(N)分布を評価困難でした【図2】。そこで、加速電圧や照射電流などの測定条件の検討を行いました。最適化した条件では熱による試料変形が抑制でき、ウレタン樹脂表面の窒素(N)分布が評価可能となりました【図3】。
(2)ウレタン樹脂中の硬化剤分布解析
ウレタン樹脂の性能は、硬化剤のイソシアネート基(-NCO)が主剤となるポリオールの水酸基(-OH)と反応してウレタン結合(-NHCOO-)を生成することで発現します。したがって、硬化剤は架橋部となるため、その分散状態はウレタン樹脂の硬度・耐溶剤性・耐酸アルカリ性・耐候性など諸物性に影響を与えます。
ウレタン樹脂表面の窒素(N)マッピング結果を図4に示します。汎用的な分光結晶では硬化剤に由来する窒素(N)を検出できませんでした。一方、軽元素用の分光結晶を用いて、さらに加速電圧や照射電流などの測定条件の最適化によって窒素(N)を明瞭に確認でき、硬化剤は数µmの凝集体を形成してウレタン樹脂表面に分布している様子が明らかとなりました。
まとめ
軽元素の検出に優れたFE-EPMAの導入及び測定条件の最適化によって、ウレタン樹脂の物性発現因子となる硬化剤の分散状態(数µmサイズの窒素(N)分布)を可視化できました。
今回紹介した窒素(N)以外に軽元素として、炭素(C)、酸素(O)、フッ素(F)なども高感度に検出できます。材料表面の元素分布に加えて、当社の断面加工技術と組み合わせて材料内部の元素分布も評価可能です。