概要
スマートフォンやノートパソコン等に幅広く使用されているリチウムイオン電池(LIB)では、正極と負極の間をLiイオンが移動することで充電や放電が行われます(図1)。充放電の繰り返しで電池の劣化が進むと、電極内に留まるLiが生成し、電池容量が低下するため、Liの存在状態を把握することが重要です。
電極中Liの化学的状態について調べる有用な手法として、固体NMR分析があります。ここでは、充放電前後の黒鉛負極材に存在するLiの化学状態について解析した結果を紹介します。
分析例
黒鉛負極材中のLi状態を解析するため、固体NMRで分析した結果を以下に示します。
試料 | 状態 | 化学シフト(ppm) | 推定帰属 |
黒鉛負極材 | 放電 | 30〜-70 | Li塩、LiCx(12<x<27) |
充電 | 0〜30 | Li塩、LiCx(12<x<27) | |
45 | LiC6,LiC12 |
充電状態では、LiC6やLiC12に帰属されるピークが45ppmに観測され、Liイオンがグラファイト層に存在していることが分かります。一方、放電状態からはLi塩やLiCx(12<x<27)といった、残存Li由来のピークが観測されました。このように、固体NMRを用いることで、材料劣化に影響する残存Liの状態を把握出来ます。