概要
スマートフォンやノートパソコン等に幅広く使用されているリチウムイオン電池(LIB)では、正極と負極の間をLiイオンが移動することで充電や放電が行われます。充放電の繰り返しで電池の劣化が進むと、電極内のLi状態が変化し容量が低下するため、Liの存在状態を把握することが重要です。ここでは、固体NMRを用いたMn系正極材のLi状態解析事例について紹介します。
分析方法・分析装置
・分析方法:7Li MAS(Magic Angle Spinning) NMR
7Li MATPASS(Magic Angle Turning Phase Adjusted Spinning Sideband) 1)
・分析装置:700MHz NMR
試料
Mn系正極材Li2MnO3
結果
固体NMRでは、試料管を高速で回転させ(MAS)、高分解能なスペクトルを取得します。はじめに、Mn系正極材の7Li MAS NMRスペクトルを示します(図1)。700MHz NMR、固体1.3mmプローブによる超高速MAS条件で測定しましたが、スピニングサイドバンド(SSB:図中*印)が多数観測され、詳細解析は困難でした。
*SSB:MAS回転数間隔で現れる副次ピーク。磁場が小さい、MAS回転数が大きいほど間隔が広くなる。
そこで、超高速MAS法にMATPASS法と呼ばれる測定法を組み合わせ再度測定しました。MATPASS法では、(図2)のように個々のメインピーク、SSBピークが分離された2次元スペクトルを取得します。SSBピークがメインピークと同じ化学シフトになるよう横軸を動かし足し合わせることで、SSBを取り除いたスペクトルを取得することが可能です(図3)。これによりピークの帰属が可能となりました。
まとめ
700MHz NMRによる超高速MAS法とMATPASS法を組み合わせた固体7Li 測定により、LIB正極材のLi状態が解析可能です。LIB正極材の充電・放電時のLi状態や、充放電サイクルに伴うLi状態の変化を調べることができます。
参照文献
1) I. Hung, L. Zhou, F. Pourpoint, C. P. Grey, Z. Gan J. Am. Chem. Soc. 134, 1898(2012).