概要
樹脂を成形すると、成形履歴に応じて様々な歪みが残ります。このような歪みは残留歪みと呼ばれ、クラックなど欠陥の遠因になるほか、長期間の使用や加熱などによる変形の原因にもなります。
本技術資料では、残留歪みとして、加熱時に収縮する量を非接触法で評価した事例をご紹介します。
分析事例の紹介
図1に結晶性ポリオレフィンのプレス成形板の事例を示しました。なるべく残留歪みが残らないように、超徐冷で成形し、面内の任意の2方向をMD、TDとして計測しました。MDとTDの挙動を比べると、MD方向の伸びが若干小さくなりましたが、大きな違いはありません。
熱処理に伴う変化についてみると、昇温する過程で80℃付近から熱膨張が止まり、ほぼ一定の長さで高温(120℃)まで推移し、冷却の際に大きく収縮しました。この結果から、超徐冷であってもプレス成形板の面内方向に残留歪みが存在することが分ります。
残留歪みによる熱収縮が比較的低い温度でも起きることを確認するため、同じプレス板からサンプルを採取し、80℃で2時間、熱処理した際の結果を図2に示します。80℃という比較的低い温度でも熱収縮し、熱処理前後で約0.5%の収縮が見られました。図1に比べると収縮量は1/5程度で、80℃より高温で処理すると更に歪みが回復すると予想されます。また、図1では見られなかった面内方向の異方性が認められたことから、プレス板の面内で残留歪みに分布があることが分りました。
熱機械分析(TMA)で同様の測定を行うと、樹脂の融点近傍では試料が柔軟になるためプローブ荷重の影響で測定が困難になります1)。非接触法では、この影響を最小限に抑えることができます。また、同じ場所の2方向の歪みを同時評価できるため、異方性の情報を得ることができます。
1) 弊社技術資料 技術レポートT1004「非接触法による線膨張率の評価」