概要
有機化合物中に含まれる未知成分の構造解析は、質量(MS)分析と核磁気共鳴法(NMR)による構造 解析が有効です。LC-TOF/MS(液体クロマトグラム-飛行時間型/質量分析計)及び大量分取HPLC-微量分析NMRを用いて、有機EL材料中のμgオーダーの微量未知成分を構造解析した分析例を示します。
分析内容
以下の手順で、有機EL材料に含まれる微量成分の構造解析を行いました。
1. LC-TOF/MSによる精密質量分析
2. 大量分取HPLCによる微量成分の分取
3. 微量分析NMR測定
4. NMRスペクトル解析
1. LC-TOF/MSによる精密質量分析
LC分析より、分析対象のピーク(約0.1ピーク面積%濃度)が14min付近に検出されました。TOF/MS分析で得られた精密質量より、この成分の分子量は588(分子式C44H32N2)と確認されました。【図1, 2】
2. 大量分取HPLCによる微量成分の分取
分析対象(分子式C44H32N2)の構造決定にはNMR分析が必要です。一般的なNMRはmgオーダー以上の試料量が必要ですが、微量分析NMRはμgオーダーの試料量で測定可能です。大量分取HPLCにより、NMR必要量(μgオーダー成分)を短時間で分取できました。【図3】
3. 微量分析NMR測定
微量分析NMRにより、大量分取HPLC分取物(μgオーダー成分)のNMR測定を行いました。【図4】
試料量2μgでH-NMR、50μgで2次元NMR(HSQC, HMBC)のスペクトルを短時間で取得できました。
4. NMRスペクトル解析
大量分取HPLC分取物(μgオーダー成分)のH-NMRスペクトルを図5に示します。
H-NMRでは、ピーク位置から水素の化学結合、ピーク分裂から隣接する水素との関係、ピーク 面積強度から水素数が解析できます。【表1】
例えば、Ha(6.9ppm付近)は、ピーク位置より芳香族化合物であり、ピーク分裂が3本(トリプレット)のため隣接水素が2個存在すると考えられます。また、総ピーク面積強度を32(LC-TOF/MSより分子式C44H32N2)としたときの面積強度比は2のため、水素数は2個と推定されました。
更に、2次元NMRを行うことで、水素-炭素の結合状態が解析可能です。
・H-C HSQC NMR ; 直接結合した水素-炭素を交差ピークとして検出 (ex. C-H)
・H-C HMBC NMR ; 離れた水素-炭素を交差ピークとして検出 (ex. CH-CH)
例として、大量分取HPLC分取物のH-C HSQC NMRスペクトルを図6に示します。前述したHa(6.9ppm付近)は、Ca(122ppm付近)との交差ピークが確認され、Ha-Caの直接結合が推定されました。H-NMRの結果と合わせ、Ha-Caの部分構造として図7が考えられました。
以後、H NMRと2次元NMRが整合するようにスペクトル解析を進めて、分析対象は有機EL材料の一つであるNPD(N,N -Di-1-naphthyl-N,N‘-diphenylbenzidine)と推定されました。【図8】
<まとめ>
LC-TOF/MS及び大量分取HPLC-微量分析NMRにより、有機EL材料中の微量成分はNPDと 推定されました。タンデム質量分析(MS/MS分析)による部分構造の解析も可能であり、NMRスペクトルと組み合わせることで解析精度は更に向上します。
本手法は、有機化合物中に含まれるμgオーダーの微量未知成分の構造解析に有用な分析ツールです。