概要
プラスチックは無機材料に比べて可撓性に優れ、大変形させても壊れません。変形しやすさを評価するには引張試験などを行い、歪ゲージ等を用い試験片の歪を正確に評価することが必要です。しかし、歪ゲージ等は大変形領域には適用できません。また、ポリオレフィン材料は適切な接着剤がなく、歪ゲージの適用が困難です。本技術資料では非接触歪計測技術をポリオレフィン材料の引張試験に適用した事例を紹介します。
分析事例
非接触による歪評価法については技術資料T0911などをご参照ください。
図1にポリオレフィン系樹脂を引張試験した際の応力を時間に対してプロットしました。図には、チャック間距離から求めた呼び歪とダンベル試験片の平行部に描いた標線間の歪を非接触歪評価技術で計測した結果も併せてプロットしました。以後、本文中では非接触法で評価した歪を“歪(非接触法)”と表記します。
応力(黒線)を見ると、引張初期に応力が極大を示しており、材料が降伏変形しています。その後、一定の応力のまま推移し、600秒付近から応力が増加しています。
歪(非接触法、青線)を見ると、概ね全領域にわたって、呼び歪(赤線)よりも大きく、屈曲点が200、400、500秒付近に現れています(それぞれ、図中にA、B、Cと表示)。
これらの屈曲点はネッキング現象が起き、試験片が不均一に延伸されていることを表しています。図2に引張試験片の変形の様子を示しました。試験開始直後は均一に変形しますが、ネッキングが始まった後は、ネッキング部が成長しながら変形します。標線間歪を評価している場合、ネッキング部が標線を通過すると(A)、標線間の変形は一旦、減速します。ネッキングが幅広の掴み部まで成長すると、ネッキング部のもう一端が成長し始めます(B)。再び、ネッキング部が標線を通過すると(C)、標線間の変形は再び減速します。
この情報をもとに、横軸を歪にして図3に示しました。呼び歪と標線間の歪でプロットした図は異なっており、呼び歪は見かけの現象であることが分かります。また、試験終了間際に観察された応力上昇挙動は、標線間歪でプロットすると、歪に対して急激に増加していることも分かりました。
次に、微小変形部を拡大し、図4に示しました。呼び歪(赤線)と歪(非接触法、青線)は試験開始後3秒程度までは一致していますが、3秒以降は歪(非接触法)が大きく、標線間が試験片全体に比べ大きく変形していることが分かります。
応力は8秒付近で極大を示し、3秒付近は降伏が起きる前の領域です。
また、応力が歪に対して線形に変化する範囲を確認したところ、約0.3%(約0.5秒)でした。このことから、3秒付近の挙動はいわゆる非線形挙動の開始点ではありません。
この観察結果は、いわゆる非線形挙動後で、且つ、マクロな降伏挙動が起きる前に、標線間歪が大きく変形し始める開始点が存在する事を示唆しています。このような評価は降伏挙動を考察するのに役立つと考えられます。
このように、非接触歪計測を用いると微小領域から大変形まで歪を評価することができ、材料に起きている現象を理解するのに役立ちます。