概要
DOSY(Diffusion Ordered SpectroscopY)は、パルス磁場勾配を利用して分子の拡散現象を観測する2次元NMR法です。混合物からなる試料に適用すると、拡散係数に応じて異なる位置にピークが観測されるため、化合物ごとにスペクトル分離が可能です。19F核のDOSYを測定する場合、通常の矩形パルスでは一度に限られた範囲(10 ppm程度)しか測定できません。そのため、19Fの広い化学シフト範囲(化合物によっては100 ppm以上)に対して、観測範囲を変えながら複数回の19F DOSY測定を行う必要があります。
弊社では、通常の19F DOSY測定に加えて、断熱パルスを採用した広帯域(約120 ppm*a)の19F DOSY測定や、CHORUS*b,1)と呼ばれる超広帯域(>400 ppm*a)の励起手法を採用した19F DOSY測定を導入しています。
*a 500MHzNMR装置の換算値
*b CHirped ORdered pulses for Ultra-broadband Spectroscopy
分析方法・分析装置
・分析方法:2次元 19F CHORUS-DOSY
・分析装置:500MHz NMR
以下にパルスシーケンスダイアグラムを示します。
試料
結果
含フッ素化合物の混合重水溶液から取得した19F CHORUS-DOSYスペクトルを図2に示します。各化合物に由来するピークが自己拡散係数(分子量)に応じて異なる位置に検出され、化合物毎にピーク分離が可能です。そこで、2次元DOSYスペクトルから取り出した化合物毎の1次元投影スペクトルを図3に示します。混合物のNMRスペクトルを成分毎の1次元スペクトルに分離することができ、成分毎にピークの同定、構造解析を行うことができました。
a. ST (CF3: -62 ppm, A: -118 ppm, B: -136 ppm, C: -143 ppm)
b. BTBA (CF3: -61 ppm)
c. TFE (CF3: -75 ppm)
まとめ
2次元19F DOSY測定では、混合試料の19F NMRスペクトルから化合物毎にスペクトル分離を行うことが可能です。今回の測定では広範囲(約85 ppm)な19F DOSYスペクトルを一度の測定で取得し、通常測定に比べ、測定の大幅な短縮が可能でした。
含フッ素ポリマーと低分子(添加剤、不純物)の混合試料や、1H NMRスペクトルではピーク重複が激しい試料等の構造解析・組成分析への活用が期待されます。
参照文献
1) J. E. Power et al. Chem. Commun. 52 (2016), 6892-6894.