概要
溶媒蒸発型GPC-Py-GC/MSとGPC-FTIRは、どちらも分子量毎の共重合組成解析が可能ですが、それぞれの特徴を理解し、目的に応じて使い分ける必要があります。
ここでは、スチレン(St)-メタクリル酸メチル(MMA)共重合体について、各分析法から得た共重合組成解析結果を比較し、それぞれのメリットとデメリットを紹介します。
試料
評価試料
St-MMAランダム共重合体(St mol% = 41) Mw = 1.3×105
検量線用試料
Py-GC/MS PSt、PMMAホモポリマーを所定の割合でブレンド
FTIR 組成既知のSt-MMA共重合体
分析方法
【図1】に装置の模式図を示します。GPC-Py-GC/MSとGPC-FTIRは、同じ溶媒蒸発型ユニットを用いてカラム通過後の試料溶液を分子量毎に分画します。分子量分画後、(a) Py-GC/MSではパイログラムのピーク面積割合を元に共重合組成を算出する一方、(b) FTIRでは、FTIRスペクトルの吸光度比を元に共重合組成を算出します。
組成解析用の検量線
分子量分画した共重合体のモノマー組成を見積もるためには検量線が必要となります。作成した検量線を【図2】に示します。GPC-Py-GC/MSの解析にはPSt及びPMMAのホモポリマーを、GPC-FTIRの解析には組成既知のSt-MMAランダム共重合体を用いて検量線を作成しました。
GPC-Py-GC/MSの方がより良い直線性が得られ、定量精度が高いことが分かります。
技術資料T2318Y「GPC-熱分解-GC/MSによる共重合組成の分子量依存性解析
① スチレン-メタクリル酸メチル共重合体」はこちら
各分析法から得た共重合組成解析結果の比較
【図3】に、GPC-Py-GC/MSとGPC-FTIRからそれぞれ得た、St含量の分子量依存性を示します。
いずれの分析法においても、St含量は分子量によらず約40mol%程度であることがわかりました。一方、2つの分析法を比較すると、GPCとの連携装置によって、データの質に違いが見られます。
(a) Py-GC/MS
感度に優れており、「GPCピーク裾部(低濃度領域)の共重合組成」が取得可能。
(b) FTIR
クロマトグラムの時間軸に対して「共重合組成の連続データ」が取得可能。
上記以外に、分析法の違いとして、Py-GC/MSは熱分解過程で変性する試料には対応不可能であること、FTIRの方が短時間で測定できることなどが挙げられます。
まとめ
GPC-Py-GC/MSとGPC-FTIRでは、どちらも共重合組成の分子量依存性を解析できますが、それぞれメリットとデメリットがあるため、目的に応じて使い分ける必要があります。
【表1】にGPC-Py-GC/MSとGPC-FTIRのメリットとデメリットを示します。
GPCとの連携装置 | メリット | デメリット |
Py-GC/MS | ・高感度(FTIRの約10倍) ・組成比の定量精度が高い |
・熱分解で変性する試料には対応困難 ・1回の測定で得られる分画数は 数分画程度 ・分画物のPy-GC/MS測定に時間を 要する |
FTIR | ・熱に不安定なポリマーでも 対応可 ・共重合組成の連続データが 取得可 |
・GPCピークの裾部分は感度不足により 組成解析困難 ・組成比の定量精度はPy-GC/MSと比較 すると低い |
参考文献
1) Py-GC/MS測定用アタッチメント(株式会社エス・ティ・ジャパン)
https://www.stjapan.co.jp/web_news/201803/PGC-MS_application_note.pdf