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技術資料
No.T2405 | 2024.05.28

グラジエントポリマー溶出クロマトグラフィー(GPEC)入門講座

概要

 HPLC(高速液体クロマトグラフィー)は、順相モード、逆相モード、サイズ排除モードなど、いくつかの原理に基づいた分離が行われています。ここでは、代表的なポリマーの組成分離法である、グラジエントポリマー溶出クロマトグラフィー(Gradient Polymer Elution Chromatography, GPEC)の原理についてご紹介します。

1.GPECとは

 GPECは、Waters社のStaal1)によって命名された、液体クロマトグラフィーによるポリマーの分離分析法です。具体的な方法は、貧溶媒(または非溶媒)で満たしたカラムに、良溶媒に溶解した試料溶液を注入します。次に、溶媒グラジエントによって、移動相組成を良溶媒100%に変化させ、その過程で試料を溶出させます。これにより、試料は分子量の違いによらず、組成の違いで分離されると言われています。GPECは、ブレンドポリマーの分離や、共重合体の組成分布分析などに広く用いられています。

GPECの長所

① 一般的なHPLC装置を用いることができ、比較的容易に測定が可能
3成分以上のブレンドポリマー、連続的に組成が変化している共重合体の組成分離が可能

GPECの短所

① 分子量が1万程度以下の低分子量成分の溶出では、分子量依存性を示す2)
② 高結晶性や超高分子量成分等では溶出が遅れる場合がある

2.GPECの分離原理

2-1 分離機構(1

 GPECでは、まず貧溶媒で満たしたカラムの中に、良溶媒に溶解したポリマー試料溶液を注入しますが(図1①)、この時、試料はカラムの先頭付近で析出すると考えられます(②)。それに続いて、移動相組成を良溶媒100%へとリニアグラジエントで変化させます。移動相がある組成になった際に、試料は再溶解し(③-1、③-2、③-3)、カラムから溶出します(④-1、④-2、④-3)。
 Staalは、ポリマーの移動相への溶解度の違いが本法の分離の主要因と考え、この分離機構を”GPEC”と命名しました1)。ここで、ポリマーの再溶解は分子量の低い成分から生じるため、実際の溶出では分子量依存性が現れると考えられます。なお、Staalは、組成の違いについては検討しているものの、分子量依存性の有無については、特に議論していないようです。
 この溶解度の違いを分離の主要因と考えるStaalGPECについて、後にStriegelは、”Traditional-GPEC”(古典的GPEC)と表現しました3)

【図1】GPECの分離機構(1):溶解度が主要因と考えたもの試料の色は組成の違いを、
球の大きさは分子量の違いを表します。

【図1】GPECの分離機構(1):溶解度が主要因と考えたもの試料の色は組成の違いを、
球の大きさは分子量の違いを表します。

2-2 分離機構(2

 Staalは、GPECの分離機構について、溶解度の違い以外にも何らかの相互作用が存在していると推定していましたが、それを明らかにすることができませんでした。その後、Brun により、GPECにおける高分子量成分の溶出では分子量に依存しないことが報告され、この理由は、後述する吸着臨界点(Critical Point of Adsorption, CPA)が関係していることが明らかにされました4)。従って、GPECの分離原理としては、CPAを主要因として、さらに溶解度の違いが合わさったものと考えられます(2)

【図2】GPECの分離機構(2):CPAが主要因と考えられる機構。ただし、低分子量成分については、再溶解と共に溶出すると考えられます。なお、試料の色は組成の違いを、球の大きさは分子量の違いを表します。

【図2】GPECの分離機構(2)CPAが主要因と考えられる機構。ただし、低分子量成分については、再溶解と共に溶出すると考えられます。なお、試料の色は組成の違いを、球の大きさは分子量の違いを表します。

 図2では、析出した試料(①)が再溶解した後(②-1、②-2)、固定相に保持できない低分子量成分は直ちに溶出します(-1、③-2)。一方で、それ以外の成分はカラムに保持され(④-1、④-2)、やがて、移動相の組成がCPAになった時に(-1、⑤-2)、分子量によらず、すべて溶出すると考えられます(-1、⑥-2)。Striegelは、このようなGPEC”Interactive-GPEC”(相互作用GPEC)と表現しました3)
 なお、これまで説明した2種類の分離機構のどちらになるかは、固定相、良溶媒、貧溶媒の組合せによって決まると考えられます5)

3.吸着臨界点(CPA)とは

 液体クロマトグラフィーの分離に関しては、熱力学的には次のように説明されます。一般的な化学反応が進行するためには式(1)が成り立ちます。

 ここで、ΔGGibbsの自由エネルギー変化、ΔHはエンタルピー変化、Tは絶対温度、ΔSはエントロピー変化です。固定相と移動相への溶質(ポリマー)の分配係数(固定相と移動相に存在する溶質の濃度比)Kは、式(2)で表されます。

 式(2)の右辺のうち、前者(エンタルピー項)は相互作用の項、後者(エントロピー項)はサイズ排除の項と呼ばれています。GPCでは、溶質と固定相との相互作用が生じないことが前提となるため、ΔH = 0となります。また、ΔS = 0の場合は、純粋に相互作用のみによる分離となります。これら両者ではポリマーの溶出に対する分子量依存性が異なっており、図3a)に示すように、サイズ排除モード(GPC)の場合は分子量の高い成分から溶出し、相互作用のモード(吸着モード)の場合(図3b))は、分子量の低い成分から溶出します。さらに、式(2)でK = 1となる場合(ΔG=0)では、分子量には全く依存せずに溶出します(図3c))。この条件は「吸着臨界点」(Critical Point of Adsorption, CPA)と呼ばれています6)。吸着臨界点では、分子量分布を有するポリマーであっても分子量に依存せず、分子構造の違いに依存して分離されます。
 GPECでは、溶媒グラジエントによって移動相組成が変化し、対象ポリマーのCPAに達した時点で、ポリマーが溶出します。ただしこの場合、対象ポリマーが再溶解した状態で、カラムに保持されている状態であることが前提となります。
 ODSカラムを用い、移動相としてメタノール/水を用いたイソクラティック(移動相組成一定)条件とした場合で、標準ポリエチレンオキシド(PEO/ポリエチレングリコール(PEG)の溶出挙動を図4に示します。メタノール/ = 80/2078/22vol%/vol%)において、PEO/PEGは、分子量に依存せずに溶出するCPA条件であることが分かります。

【図3】HPLCによるポリマーの分離と分子量の関係

【図3】HPLCによるポリマーの分離と分子量の関係

【図4】標準PEO/PEGの分子量と保持時間の関係
カラム   : ODSカラム
移動相   : メタノール/水 (イソクラティック)
検出器   : ELSD

【図4】標準PEO/PEGの分子量と保持時間の関係
カラム   ODSカラム
移動相   : メタノール/ (イソクラティック)
検出器   ELSD

参考文献
1)W. J. Staal, “Gradient Polymer Elution Chromatography”, Eindhoven University of Technology (1996).
2)香川, 分析化学, 71 (9), 449 (2022).
3)A. M. Striegel, Trends Anal. Chem. 130, 11599 (2020).
4)Y. Brun, P. Alden, J. Chromatogr. A, 966, 25 (2002).
5)香川, 第28回高分子分析討論会要旨集, Ⅱ-20, (2023).
6)H. Pasch, B. Trathnigg : “HPLC of Polymer”, Springer, 17 (1997).

適用分野
高分子材料, その他汎用樹脂, ゴム
キーワード
組成分離, 吸着臨界点, CPA, HPLC, GPEC, 溶媒グラジエント, 液体クロマトグラフィー

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