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技術資料
No.T2417 | 2024.08.07

プラスチック資源循環 UV照射によるPPの劣化挙動

概要

 カーボンニュートラル社会へ向け、プラスチック資源循環の確立が求められています。そのためには、プラスチックのマテリアルリサイクルの仕組みの構築が重要です。研究開発においては、劣化挙動の解析が主要な検討課題です。本資料では、バージン及びリサイクルポリプロピレン(PP)製の成形品にUVを照射し、PPの劣化機構を検討した結果を示します。

験方法

 厚みが0.1㎜から3㎜のポリプロピレン(PP)のダンベル試験片を圧縮成形あるいは射出成形により作成しました。この試験片に対し、アイスーパーUVテスター、SUV-W161(岩崎電機製)を用い、紫外線照射を行いました。その結果より、照射時間と引張試験で得られる引張破断エネルギーの関係が得られます。なお、引張破断エネルギーは、図1に示すように、引張試験時の応力と引張試験機のチャック間の移動距離から求めることができます。

【図1】引張破断エネルギーの説明
斜線部の面積:引張破断エネルギー

【図1】引張破断エネルギーの説明
斜線部の面積:引張破断エネルギー

結果

 図2にUV照射時間tEに対して、引張破断エネルギーEbを片対数プロットした結果(左図)tE軸に対して平行移動して基準として示した赤い一点鎖線へ重ね合わせた結果(右図)を示しました。赤い記号はバージンPP、青い記号はリサイクルPPを示します。■印は厚み0.1㎜の試料、×印は厚み3㎜の試料です(これらのPPの分子量はGPCを用いて同等であることを確認しています)。いずれの結果も、照射時間軸に平行に移動すると、基準とした赤い一点鎖線に重ね合わせることができる時間領域があることが分かりました。図3には図2に示したPPに加えて、バージンPPやリサイクルPP製の市販プラスチック製品から採取した試料の評価結果を示しました。図2と同様、基準線に重ね合わせ可能な時間領域が確認されました。

【図2】UV照射時間と引張破断エネルギーの関係

【図2】UV照射時間と引張破断エネルギーの関係

【図3】各種PPのUV照射時間と引張破断エネルギーの関係

【図3】各種PPUV照射時間と引張破断エネルギーの関係

 以上からPPの種類などに関係なく、logEbにはtEに対して一定の勾配を持つ時間領域があることが分かります。すなわち、PP試験片に対してUV照射を行うと、ある一定の時間域において、tE依存性が

logEb=logEb0pt; Eb0pは定数     (1)

と表せ、定数pは一定の値を取ると考えられます。
 各種PPEbは結晶などの構造体を結ぶ分子鎖(タイ分子鎖)数で決まります。Ebの減少の時間依存性が普遍的に式(1)で表せることから、初期値Eb0の相違は、tE=0でのタイ分子鎖数の違いを反映すると言えます。したがって、分子量(分子鎖の長さ)が同等でもEb0が低くなる場合、何らかの物理的理由(物理劣化)によりタイ分子鎖の数が減少していると言えます。なお、図2、3で示した現象は、高密度ポリエチレンHDPEでも観測されています。さらに、最先端の検討では、PPHDPEに適切な処理を行えば、タイ分子鎖の数が増え、引張破断エネルギーEbなどの物性が向上することが分かってきています。

まとめ

 PPの試験片に、UV照射を与えたとき、照射時間tEに対する引張破断エネルギーEb低下の時間依存性はPPの種類に依存しませんでした。
 なお、20249月開催の第73回高分子討論会で弊社から本資料に基づく講演を行います。

謝辞

 本資料に関し、2011年から2015年にかけて、ご指導、ご鞭撻頂いた福岡大学八尾教授及び八尾研究室(当時)の冨永博士、中野助教、並びに関口助手に厚く御礼申し上げます。

参照文献

1) S. Yao et al.; 他; Nihon Reoroji Gakkaishi,  41, 173-178 (2013)
2) 冨永亜矢, ; 高分子論文集, 70, 712-721 (2013)
3) 高取永一 他; 日本レオロジー学会誌, 42, 45-49 (2014)
4) 高取永一; 工業材料, 65(5), 49-53 (2017)
5) S. Prager, et al.; J. Chem. Phys., 75, 5194 (1981)

適用分野
プラスチック、ソフトマテリアル、エラストマー、ゴム
キーワード
資源循環、カーボンニュートラル、マテリアルリサイクル、プラスチック、ポリプロピレン、アイスーパーUV

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