概要
MALDI-TOF/MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化–飛行時間型質量分析)を用いたMSイメージング測定では、特定の質量に着目し、その成分の偏在を視覚情報として得ることが可能です。本報告はブリードが生じている樹脂フィルム2 種(Wax添加有・無)についてMSイメージング測定を行い、イメージング解析ソフトで解析を行った例を紹介します。
試料
樹脂フィルム(Wax添加有・無)
分析装置・分析方法
- MALDI-TOF/MS(MALDI-7090/島津製作所製)
- マトリックス蒸着装置(iMLayer/島津製作所製)
導電性のITOスライドガラス上に試料フィルム(図2 黄色)を固定し、マトリックス蒸着装置を用いて試料にマトリックス(2,5-DHB/2,5-ジヒドロキシ安息香酸、図1)を均一に蒸着させました(図2)。図2 の赤枠内(12×12 mm)についてMSイメージング測定を行いました。
MSイメージング測定では、試料平面上を一定間隔でレーザー照射し、生じたイオンをMS測定することによって多数のMSスペクトルを取得します。解析ソフトを用いることで、取得したデータから特定の質量に着目した二次画像を得ることができます。
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【図1】マトリックス(2,5-DHB)の構造
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【図2】マトリックス蒸着後の試料
結果
1) マトリックスの均一性確認
図3 にマトリックスである2,5-DHBのMSイメージング測定結果を示します。本報告の条件では、2,5-DHBは主にH+が付加したm/z 155 のイオンとして検出されます。図3 より、Waxの有無によるマトリックスの検出強度に多少の差はあるものの同程度であり、マトリックスは均一に蒸着していることが確認されました。
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MSイメージング測定結果"
【図3】マトリックス(2,5-DHB)の
MSイメージング測定結果
2) Wax由来のブリード物のMSイメージング
樹脂フィルム上の任意の2か所にて測定したMSスペクトルを図4 に示します。Waxを添加した試料のMSスペクトルにおいてのみm/z 592 のイオンが検出(青色で表示)され、Wax由来のブリード物と推定されました。そこで、m/z 592 のイオンに着目したMSイメージング測定を実施した結果を図5 に示します。
Wax添加の有無でMSイメージングを比較すると、Waxを添加した試料においてのみm/z 592 のイオンが強く検出されました。特に左上部が最も強く検出されており、Wax成分のブリード物が偏在している可能性が示唆されました(図5 白破線)。
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【図4】樹脂フィルムのMSスペクトル
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【図5】Wax成分のMSイメージング測定結果
まとめ
本報告では、樹脂フィルムのMSイメージング測定を行いました。MALDI-TOF/MSはマトリックスが蒸着されている表面の分析であり、イメージングによってフィルムのブリード物や特定成分の偏在を視覚的に確認することが可能です。