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技術資料
No.T2430 | 2025.02.18

熱脱着・熱分解DART-MSによるポリウレタン原料解析

概要

 ポリウレタン (PU) の原料解析手法として、原料まで分解してから分析する方法の他、前処理不要かつ短時間で測定できる利点を持った直接分析法があります。本技術資料では直接分析法の1つである熱脱着・熱分解DART-MSを用いたポリウレタン中の添加剤及びポリオールの簡易的な構造解析事例をご紹介します。

試料

1) PUエラストマー (ポリエーテルポリオール含有)
2) PUエラストマー (ポリエステルポリオール含有)

分析装置

・MS

ブルカー・ダルトニクス microTOF (飛行時間型質量分析計)

・測定質量範囲

m/z 50-1000

・イオン源

DART-OS (IonSense製)

・昇温加熱デバイス

ionRocket (バイオクロマト製)

分析方法

 熱脱着・熱分解DART-MS測定の原理を図1に示します。昇温加熱デバイスにより加熱され、気化した試料中成分がDARTイオン源において生成した励起状態のヘリウムと反応し、イオン化された後、質量分析計で検出されます。実際に昇温加熱デバイスを取り付けたDART-MS外観を示します (2)
 粉状にしたPUエラストマーを試料台中央の窪みにセットし (3)、試料台を昇温加熱デバイスに設置しました (4)30 ℃から600 ℃まで昇温加熱し、熱脱着・熱分解した成分をDART-MS測定しました (5)

【図1】熱脱着・熱分解DART-MS測定の概要図

【図1】熱脱着・熱分解DART-MS測定の概要図

【図2】昇温加熱デバイス設置後のDART-MS外観

【図2】昇温加熱デバイス設置後のDART-MS外観

【図3】試料台

【図3】試料台

【図4】昇温加熱デバイス加熱部位

【図4】昇温加熱デバイス加熱部位

【図5】トータルイオンクロマトグラム

【図5】トータルイオンクロマトグラム

結果

1)PUエラストマー (ポリエーテルポリオール含有)

 各温度帯におけるDART-MSスペクトルを図6に示します。低温帯において、PUに配合されている添加剤成分(紫外線吸収剤、加水分解防止剤)が検出されました。中温帯においてはポリテトラメチレンエーテルグリコール (PTMG, 繰り返し分子量: 72) のプロトン付加イオンが検出され、ポリオールとしてPTMGが使用されていることが示唆されました。高温帯ではPUの熱分解パターンが確認されました。

【図6】PUエラストマー (ポリエーテルポリオール含有) のDART-MSスペクトル

【図6】PUエラストマー (ポリエーテルポリオール含有) DART-MSスペクトル

2)PUエラストマー (ポリエステルポリオール含有)

 各温度帯におけるDART-MSスペクトルを図7に示します。低温帯において、PUに配合されている添加剤成分(加水分解防止剤)が検出されました。中温帯においてはm/z 200間隔の複数のイオンが検出され、ポリオールとしてアジピン酸と1,4-ブタンジオール (1,4-BG) からなるポリエステルの使用が示唆されました。高温帯ではPUの熱分解パターンが確認されました。

【図7】PUエラストマー (ポリエステルポリオール含有) のDART-MSスペクトル

【図7】PUエラストマー (ポリエステルポリオール含有) DART-MSスペクトル

まとめ

 表1に本手法により得られる情報をまとめます。温度により検出される成分が変化するため、各温度帯で得られる情報が異なります。特に低温帯において添加剤の種類、中温帯においてポリオールの種類といった有益な情報が得られました。

【表1】各温度帯から得られる情報

試料

温度帯

得られる情報

PUエラストマー

低温

<250 ℃

添加剤の種類

中温

300 ℃付近

ポリオールの種類 (ポリエーテル、ポリエステル等)

高温

>400 ℃

特記なし(PUの熱分解パターン)


 PUを原料まで分解して各種分析を行う方法(技術資料T1805等)は得られる情報量が多く、PU原料の詳細解析が可能です。一方、本法(昇温加熱デバイスを組み合わせたDART-MS測定・解析)はPUを分解等の前処理をすることなく簡便で、PU多検体の添加剤やポリオールのスクリーニングなどに有用です。

適用分野
プラスチック・ゴム、その他有機材料
キーワード
ポリウレタン、PU、PUエラストマー、ポリオール、添加剤、DART-MS

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