概要
金属触媒は固体触媒の一種で、金属酸化物などの担体に高活性の金属微粒子が担持されています。触媒劣化因子として、担持金属の変質やコーキング(触媒使用で生じる炭素蓄積)等が考えられます。本資料では、X線光電子分光法(ESCAまたはXPS)による金属価数、酸素燃焼–赤外線吸収法によるコーキング量の解析事例を紹介します。
分析装置
1)金属価数解析(X線光電子分光法)
装置 | VersaProbeⅡ(アルバック・ファイ製) |
条件 | X線源 AlKα (1486.6eV) |
2)コーキング量解析(酸素燃焼–赤外線吸収法)
装置 | CS844(LECO社製) |
試料量 | 約10mg |
試料
ルテニウム(Ru)触媒【図1】
[担体:アルミナ(Al2O3)、水素化反応前後]

【図1】試料外観
(Ru担持Al2O3粉末)
結果及び考察
1)金属価数解析
ESCAは試料にX線を照射して発生する光電子を検出する手法で、ピーク位置(結合エネルギー)から構成元素や化学状態、ピーク強度から組成を解析できます。検出可能な元素はLi~Uと幅広く、様々な金属触媒を分析可能です。
触媒使用前後のルテニウム(Ru3d)及び炭素(C1s)ピークを図2に示します。Ru3dピークは原理的に2本に分裂します(Ru3d5/2, Ru3d3/2)。触媒使用後、Ru3d5/2ピークが低エネルギーシフトしていたことから、Ruが還元されていると推定されます。ピーク位置(約280.2eV)より、触媒使用後のRu価数は0価と考えられます。
一方、C1sピーク(約285eV【図2】)は触媒使用後に増大し、コーキング(触媒使用で生じる炭素蓄積)が推定されます。ただし、C1sはRu3d3/2とピークが干渉するため、ESCAによるコーキング量解析(C組成解析)は困難です。

【図2】Ru3d及びC1s高分解能スペクトル
2)コーキング量解析
酸素燃焼–赤外線吸収法によってCを定量し、コーキング量を解析しました。同手法は試料を酸素気流中で加熱燃焼させ、CO2として回収した炭素を赤外線検出器で計測することで数ppm~数十%のC濃度を評価できます。
触媒使用前後のC濃度を表1に示します。計3回の測定結果は再現性良好であり、コーキング由来と考えられるC濃度の増加を確認できました。
Ru触媒 | 測定1回目 | 測定2回目 | 測定3回目 | 平均 |
---|---|---|---|---|
使用前 | 0.13wt% | 0.13wt% | 0.12wt% | 0.13wt% |
使用後 | 4.7wt% | 4.7wt% | 4.7wt% | 4.7wt% |
まとめ
ESCA及び酸素燃焼–赤外線吸収法により、金属触媒の劣化因子となり得る金属価数変化やコーキング量を解析可能です。今回分析したRu触媒では、触媒使用後におけるRuの還元を明らかとし、コーキングを定量化しました。
弊社では本資料以外の触媒解析技術も多数保有しており、触媒性能に寄与する構造因子を多角的な視点から評価できます。