概要
糖鎖は単糖(グルコース、ガラクトース等)が脱水縮合して形成された生体分子であり、生体内に普遍的に存在します。近年、糖鎖の構造や機能が生命活動に重要な役割を果たすことが分かり、DNA、タンパク質に次ぐ第3の生命鎖として注目されています。
弊社では1.7mm CryoProbeを装着した700MHz NMRを備え、0~80℃までの温度帯域において1H、13C、15N核を用いたNMR実験が可能です。本技術資料では、高磁場溶液NMRを用いたN-結合型糖鎖の分子構造解析をご紹介します。
分析事例
抗体医薬品にはN-結合型糖鎖(N-Linked glycan、アスパラギンに結合した糖鎖)を有するものが多数あり、糖鎖が薬効に影響するため、その構造の把握が重要です。700MHz NMRを用いることで高感度、高分解能なスペクトルを得ることができ、100µgの糖鎖でも分子構造解析が可能となりました。
① 単糖の種類
ヒトのN-結合型糖鎖の構成単糖には、図1で示す5種類がよく見られます。各種1、2次元NMR測定を用いることで、これらの単糖の種類や含量を解析することが可能です。
② 単糖のグリコシド結合位置、1位の立体異性
糖鎖は単糖同士がグリコシド結合し構成され、単糖は複数の結合活性水酸基を有します(図2a)。更に、1位の水酸基の位置違い(立体異性)が存在するため(図2b)、多種多様な糖鎖構造を形成可能です。NMRでは原子核の位置関係(相関)を解析できるため、これらを明確に区別して解析可能です。
③N-結合型糖鎖の分子構造解析
ヒト抗体のN-結合型糖鎖は、10糖残基程度から成る2分岐、3分岐構造です。また、多種類の単糖から成る糖鎖や、主にマンノースから成る糖鎖等、様々な糖鎖があります。1.7mm CryoProbeを装着した700MHz NMRにより、高感度高分解能2次元NMRスペクトルの取得が可能となり、100µg試料で単糖の種類、グリコシド結合位置、1位の立体異性を含めた詳細な分子構造解析が可能となりました(図3)。
本手法により、4種類のN-結合型糖鎖(100µg)の分子構造を決定しました(図4a–d)。抗体等の糖タンパク質より分取したN-結合型糖鎖への適用と、機能―構造相関解析が期待されます。