概要
近年、有機材料が光学材料や電子材料として用いられることが多くなっている。その多くは、分子鎖、若しくは分子鎖に結合した官能基が特定方向を向いて配列、集積することにより、特異的な性能が発現する。即ち、分子の配列の程度(配向)は、特性と密接な関わりがあると考えられている。
面内配向を調べる手法は限られており、例えばIn-plane XRDを用いて面方向の結晶配向を調べることできる(弊社で受託可能)。その他に、偏光IRは適切な吸収を用いれば結晶/非晶を問わず配向性を評価できる。
本技術資料では、イメージング偏光IRを用いた面内方向の分子配向性を評価した事例を紹介する。
試料
試料 基板上の電極間に成膜した有機半導体(何れも同じ材料)
1. 移動度高 :キャリア移動度が高い素子
2. 移動度低 :キャリア移動度が低い素子
装置 イメージングFTIR(日本分光製、反射法)
電極間の赤で表示した部分をマッピング測定した(格子はマッピングのドットイメージ)
結果
試料1.移動度高について、【図1】の赤で表示した電極間全体の偏光IRスペクトルを測定した。その一部を【図2】に示す。偏光子を0°方向に固定し、試料を回転させながら測定したところ、CH2対称伸縮に相当する2854㎝-1とCH2非対称伸縮に相当する2954㎝-1の吸光度が試料の回転に伴い変化することが分かった。
偏光子を固定し、試料を回転させて測定した(左)
特定の波数に着目し、回転角度に対してプロットした(右)
この2つの波数に対応する振動子は分子配向性と関係があると考え、マッピング測定を行った。偏光子を基板0°方向に固定して測定した吸光度をI0°、90°に固定して測定した吸光度をI90°とした(方向は、図1,3参照)。測定結果を用い、分子配向を求める(式1)の係数値(式中、赤線で囲った部分)で表示した結果を図3に示した。本来、分子配向を求めるには、式中のθが既知であることが必要であるが、今回は不明であるため、係数値をそのまま用いた。
f :配向度,θ:振動方向と主鎖のなす角 (式1) D=I0°/I90°, Ix°:基板のX°方向の吸光度(図1、3参照) |
波数2954㎝-1でマッピング測定した結果を【図3】に示した。
同じ材を用いて作成したキャリア移動度が異なる素子を比べると、係数値の正負が逆転し、配向の違いがあることが分かった(各スケールバーは絶対値が大きくなるほど色が濃くなるように表示しているが、正負逆)。
詳細に見ると、移動度が高い試料(図3左)は、ほぼ均一に配向している(すべてのドットで色が濃い)のに対し、移動度が低い試料(図3右)では、色が薄い部分が点在し、配向状態が不均一であることがわかった。配向状態が周辺と異なる部分はキャリア移動を妨げると推定され、素子の性能と対応した。
【図4】に係数値の絶対値をヒストグラムで表した。前述の内容とよく対応し、移動度が高い試料は分布が狭く、移動度が低い試料は分布が広いことが確認できた。
このように、同じ材を用いて成形した性能の異なる素子を調べたところ、配向状態と性能には密接な関係があることが示唆された。
移動度が高い試料は、全領域で配向の絶対値が大きい(色が濃い)
移動度が低い試料は、配向していない部分が存在する(色が薄い部分が点在)
移動度が高い試料は鋭い分布
移動度が低い試料は2山で広い分布
まとめ
有機物の配向状態は、材料特性と密接に結びついているものの、その評価手法は限られている。
偏光IRマッピングは、分子鎖の配向状態および均一性を評価する事ができ、特性解析の一助となりうる。