概要
糖鎖は単糖(グルコース、ガラクトース等)が脱水縮合して形成された生体分子であり、生体内に普遍的に存在します。近年、糖鎖の構造や機能が生命活動に重要な役割を果たすことが分かり、DNA、タンパク質に次ぐ第3の生命鎖として注目されています。
弊社では糖鎖から構成単糖選択的、及び構造異性体選択的な情報を取得することが可能な選択励起2次元NMR測定手法1)を保有し、構成単糖の種類やグリコシド結合、単糖構造異性体を解析することが可能です。本技術資料では、選択励起2次元NMR測定を用いた解析例として、①N-結合型糖鎖の分子構造解析と、②単糖構造異性体の特異的帰属の例をご紹介します。
分析方法・分析装置
・分析方法:選択励起2次元TOCSY*1-COSY*2、TOCSY-NOESY*3、TOCSY-HSQC*4
・分析装置:700MHz NMR、500MHz NMR
以下にパルスシーケンスダイアグラムを示します。
試料
N-結合型糖鎖、キシロース
結果
①選択励起2次元TOCSY-COSY、TOCSY-NOESYを用いたN-結合型糖鎖構造解析
選択励起2次元NMR測定は、単離している1Hピークを選択的に励起し(図2)、そのピークに関連する情報を得る測定手法です。選択励起2次元TOCSY-COSYにより単糖内1Hの解析、選択励起2次元TOCSY-NOESYにより単糖間1H(グリコシド結合)を解析できます(図3)。これにより、N-結合型糖鎖の分子構造解析が可能です(図4)。
【図4】 解析された糖鎖の部分構造
②選択励起2次元TOCSY-HSQCとTOCSY-COSYを用いた単糖構造異性体の特異的帰属
選択励起2次元TOCSY-HSQCとTOCSY-COSYにより、特定の構造異性体に由来する1H及び13C化学シフトの同定が可能です。
キシロース等の単糖は、構造異性体を複数有します(図5)。通常の2次元NMR測定手法では全ての構造異性体由来のピークが同時に観測されますが(図6青)、選択励起2次元TOCSY-HSQC測定ではβ-体キシロースの1H及び13Cの化学シフトの解析(図6左、赤)、TOCSY-COSYでは同じくβ-体キシロースの1Hの帰属が可能です(図6右、赤)。
まとめ
選択励起2次元NMR測定を用いることで、糖鎖の構成単糖の同定やグリコシド結合位置、修飾位置の解析や、構造異性体混合物における特定構造の解析が可能です。1Hピークの重複が激しく解析が困難になりやすい糖鎖、天然物、およびその誘導体の分子構造解析に有用です。
引用文献
1)Sato, H & Kajihara, Y. Carbohydr. Res. 340, 469-479 (2005).