概要
近年、糖鎖はDNA、タンパク質に次ぐ第3の生命鎖として注目され、糖タンパク質の構造及び機能制御に重要な役割を果たす例が報告されています。糖鎖研究のためには生体試料から糖鎖を単離精製する必要がありますが、一般的に得られる量は極微量であり、有機化学的に合成することも困難です。
弊社では超高感度1.7mmクライオプローブTMを装着した700MHz NMRを備え、微量試料の構造解析が可能です。本技術資料では、700MHz NMRを用いた10µg糖鎖の分子構造解析をご紹介します。
分析方法・分析装置
- 分析方法:2次元NMR 1H-1H TOCSY、1H-1H NOESY
- 分析装置:700MHz NMR、1.7mmクライオプローブTM
試料
N-結合型糖鎖(10µg)
結果
弊社独自の測定及びデータ処理技術を採用し、溶媒(D2O)中に含まれる軽水由来の1Hピーク(4.7ppm付近)を消去し、高感度、高分解能な2次元1H-1H相関スペクトルを取得可能です
【図1】。また、2次元1H-1H TOCSY及び1H-1H NOESYスペクトルを組み合わせ、9糖残基のN-結合型糖鎖(10µg)の分子構造解析が可能となりました【図2】。
【図2】 10µg糖鎖の高感度高分解能2次元1H-1H NOESYスペクトルによる解析結果
a) ガラクトース残基(G)の2次元1H-1H TOCSY及びNOESYスペクトル
(間接観測軸:Gの1位1Hの化学シフトに相当)
b) N-アセチルグルコサミン残基(GN)の2次元1H-1H TOCSY及びNOESYスペクトル
(間接観測軸:GNの1位1Hの化学シフトに相当)
c) a及びbの各スペクトルより解析した部分分子構造
d) 9糖残基N-結合型糖鎖の分子構造解析結果
a) ガラクトース残基(G)の2次元1H-1H TOCSY及びNOESYスペクトル
(間接観測軸:Gの1位1Hの化学シフトに相当)
b) N-アセチルグルコサミン残基(GN)の2次元1H-1H TOCSY及びNOESYスペクトル
(間接観測軸:GNの1位1Hの化学シフトに相当)
c) a及びbの各スペクトルより解析した部分分子構造
d) 9糖残基N-結合型糖鎖の分子構造解析結果
まとめ
1.7mmクライオプローブTMを装着した700MHz NMRを用いて2次元NMR測定を行うことにより、N-結合型糖鎖(10µg)の分子構造解析が可能となりました。本手法はHPLC等で単離精製した微量な糖鎖試料への適用が可能であり、抗体医薬品等の糖タンパク質の機能と糖鎖構造の相関解析が期待されます。
適用分野
NMR、2次元NMR、HPLC、分子構造解析
キーワード
糖鎖、抗体、医薬品、糖タンパク質、微量、1.7mmクライオプローブ、700MHz NMR