概要
核磁気共鳴分光法(NMR)では、13C NMRにより高分子材料の分岐・配列・末端等の解析が行えます。弊社に導入した700MHz NMR装置は大口径10mmプローブを備え、既設の500MHz NMR装置(5mmプローブ)に比べより微量な成分の検出が可能となります。
ここでは、ポリエチレン系合成ゴムの塩素分布解析事例について紹介します。
分析事例の紹介
ポリエチレン系合成ゴムの一つに、ポリエチレンにクロロ基(-Cl)、クロロスルホン基(-SO2Cl)を付加したクロロスルホン化ポリエチレン(CSM)があります。CSM中の塩素分布はCSM中のポリエチレン残存結晶量やガラス転移点(Tg)に影響を及ぼしますが、13C NMRによりその評価が可能です。
塩素量の等しいCSM2試料の溶液13C NMRスペクトルを図1に示します。CSMの13C NMRスペクトルでは、Pentad(五連鎖)中央のCH2ピーク周囲のクロロ基の結合状態(クロロ基の数や位置)でピークを区別することが可能です。
帰属したピーク積分値の比率より、塩素分布(クロロ基の分散状態)を解析することが可能です【表1】。試料Aは試料Bに比べ、塩素を含まないユニットであるピーク③(塩素0個)の割合が大きい傾向が見られます。一方、塩素数が最も多いユニットであるピーク④(塩素3個)の割合は、差異は僅かですが試料A>試料Bとなりました。塩素を含まないユニットや、塩素を最も多く含むユニットの割合が多いことは、分子内の塩素分布に偏りがあることを意味します。したがって、試料Aは試料Bに比べ塩素分布が不均一であると推定されました。
今回の材では、ピーク④や⑦といった微量な成分は500MHz NMRでは観測できず、700MHz NMRによって初めて検出可能となりました。本装置はCSMだけでなく、様々なポリマーの微小な分岐・末端・配列等の定性・定量分析に有用と考えられます。