概要
ポリエチレン樹脂製品中には、性能の維持・向上のために様々な添加剤が含まれており、その添加剤の種類や量を把握することは重要です。弊社ではポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の様々な樹脂中の各種添加剤の定性・定量分析を受託しております。今回は、ポリエチレン樹脂中の添加剤分析について紹介します。
分析内容
添加剤分析のフロー図を図1、主な分析方法と分析成分を表1に示します。基本的には図1フロー①に従い、ポリエチレン中の添加剤を混合溶媒で抽出し、抽出物をGC(/MS)及びHPLCで分析します。GCは低分子量の添加剤に使用し、分子量が大きくGCで分析できない添加剤はHPLCで測定します。分解しやすいリン系の酸化防止剤などは、GCまたはHPLCで定性後、蛍光X線分析(XRF)で定量可能です。また、アンチブロッキング剤、充填剤のような無機物は図1フロー②に示すようにポリエチレンを灰化処理し、灰分のIR測定により分析できます。分析方法と分析成分、必要な試料量を表1に示します。測定したい添加剤の種類によっては、別のフローとなる場合がありますので、その場合にはご相談をお受けします。
分離物 |
主な分析方法 |
分析成分(項目) |
必要試料量 |
バルク |
XRF |
7元素 (S, P, Ca, Zn, Si, Mg, Al) |
5 g |
抽出物 |
GC(/MS) |
酸化防止剤、帯電防止剤、 |
10 g |
灰分 |
赤外分光法 |
アンチブロッキング剤、 |
7 g |
分析事例
市販のポリチャック袋(LDPE)を図1のフローに従い、添加剤分析しました。
1. 定性分析
(1)GC
試料の抽出物と標準試料のガスクロマトグラムを図2に示します。また、混合標準試料に含まれる添加剤を表2に示します。試料抽出液のガスクロマトグラム(図2の赤線)に検出されたピークは、標準試料(図2の青線)のBHT、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸アミド、Irganox 1076のピークと保持時間が一致しました。よってこの事から、試料にはこれらの添加剤が含まれていることが分かりました。
ピーク番号 |
添加剤* |
ピーク番号 |
添加剤* |
|
1 |
BHT (ジブチルヒドロキシトルエン) |
10 |
Tinuvin 327 |
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2 |
SEESORB 201 |
11 |
エルカ酸アミド |
|
3 |
パルミチン酸 |
12 |
SEESORB 102 |
|
4 |
ステアリン酸 |
13 |
Tinuvin 120 |
|
5 |
Tinuvin P |
14 |
Tinuvin 770 |
|
6 |
SEESORB 501 |
15 |
Irgafos 168 |
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7 |
オレイン酸アミド |
16 |
Irganox 1076 |
|
8 |
Tinuvin 326 |
17 |
DLDTP (ジラウリル-3,3’- チオジプロピオン酸エステル) |
|
9 |
スミライザーGM |
(*:物質名、または登録商標にて記載)
(2)HPLC
試料の抽出物と標準試料の液体クロマトグラムを図3に示します。また、混合標準試料に含まれる添加剤を表3に示します。試料抽出液の液体クロマトグラム(図3の赤線)に検出されたピークは、標準試料(図3の青線)のBHT、Irganox 1076のピークと保持時間が一致しました。よってこの事から、試料にはこれらの添加剤が含まれていることが分かりました。
【表3】 HPLC用混合標準試料
ピーク番号 |
添加剤* |
ピーク番号 |
添加剤* |
|
1 |
SEESORB 501 |
9 |
Tinuvin 234 |
|
2 |
SEESORB 201 |
10 |
Tinuvin 326 |
|
3 |
BHT (ジブチルヒドロキシトルエン) |
11 |
Irganox 1010 |
|
4 |
Tinuvin P |
12 |
Tinuvin 327 |
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5 |
スミライザーGM |
13 |
Irganox 1330 |
|
6 |
Tinuvin 120 |
14 |
Irganox 565 |
|
7 |
SEESORB 102 |
15 |
Irganox 1076 |
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8 |
Irganox 3114 |
16 |
Irgafos 168 |
(*:物質名、または登録商標にて記載)
(3)XRF
試料をXRF分析した結果、S、Caが検出されました。GCでステアリン酸が検出されたため、Caはステアリン酸カルシウムと推測されました。
2. 定量分析
試料から検出された成分のうち、Irganox 1076についてGCで定量しました。図5に示すように、試料、及びIrganox 1076標準試料のピーク面積を測定し、標準試料の濃度とピーク面積から作成した検量線を用いて、試料抽出物中のIrganox 1076の濃度を計算しました。その結果、抽出物中に含まれているIrganox 1076の量は290 ppmと定量されました。
まとめ
以上のように、試料のXRF分析、及び試料抽出物のGC、HPLC測定を行うことで、市販のポリチャック袋にはBHT、パルミチン酸、ステアリン酸(ステアリン酸カルシウム)、オレイン酸アミド、Irganox 1076、及びSを含む添加剤が含まれていると推定されました。また、GCで検量線を作成することで、試料抽出物中のIrganox 1076は290 ppmと定量されました。このような方法によって、ポリエチレン等の様々な樹脂中の各種添加剤の定性・定量が可能です。