1.概要
GPC(SEC)装置にFT-IR検出器を併用することで、組成分布解析や、未知成分の分離同定が可能になります。ここでは、溶媒蒸発型のGPC-FTIR装置について解説します。
2.GPC-FTIR装置
GPC-FTIR装置には、大きく分けて2種類あり、1つはフローセル型(図1)、もう1つは溶媒蒸発型(図2)です。

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フローセル型は、以前より用いられてきましたが、測定試料が限定されることもあり、最近では限られた目的、試料にのみ用いられます。(測定例は、弊社技術資料「GPC(SEC)-FTIR法による高分子の構造解析(1)~(3)」を参照して下さい)
溶媒蒸発型は、フローセル型に代わって広く用いられるようになってきた装置で、カラムから溶出した溶離液をネブライザーから噴霧して溶離液を蒸発除去し、残った試料を回転するゲルマニウム板に連続的に吹き付けていきます。(図3)
GPC測定後、このGe板をFT-IRの試料室の専用ユニット(図5(b))にセットし、Ge円板を回転させながら、試料のIR測定を行います。(図4)
装置の写真を図5に示します。

フローセル型と溶媒蒸発型の比較を表1に示します。
フローセル型 |
溶媒蒸発型 |
|
①溶離液 |
クロロホルム |
THF, クロロホルム等 (沸点 < 約100℃) |
②解析波数 |
溶離液の吸収領域以外 |
4000~800cm-1 |
③定量性 |
◎ |
△ |
溶媒蒸発型の最も大きな長所は、試料の赤外吸収スペクトルが溶離液の赤外吸収に影響されないことです。このため、通常の固体試料の測定と同様、測定波数全体の赤外吸収について解析することが可能です。フローセル型では溶離液の赤外吸収領域は解析できません。例えば溶離液がTHFの場合、観察される赤外吸収は主成分のTHFのみで、ポリマーの赤外吸収は観察されません。この理由から、溶離液は赤外吸収領域の少ないクロロホルム等に限られるため、測定対象試料が限定されます。一方、溶媒蒸発型では、溶離液を蒸発除去できれば、測定・解析が可能です。このため、GPC測定で最も広く用いられているTHFを用いることが可能であり、応用範囲が大きく広がります。
フローセル型(溶離液:クロロホルム)と溶媒蒸発型(溶離液:THF)で測定したスチレン-MMA共重合体のIRスペクトルを図6に示します。フローセル型の場合、溶離液(クロロホルム)の吸収領域は試料のスペクトルを得ることはできません。

(スチレン-MMA共重合体)
以上のように、溶媒蒸発型のGPC-FTIRを用いることで、フローセル型では困難であったTHF系などのGPC-FTIR測定による組成分布解析や、未知成分の同定などを行うことができ、様々な知見を得ることができます。
溶媒蒸発型で測定したスチレン-MMA共重合体の組成分布測定結果を図7、8に示します。

クロマトグラム(3D-クロマトグラム)

(分子量分布曲線はRI検出器の出力信号により計算)
最後に、溶媒蒸発型のGPC-FTIRで対応が難しい条件を記載します。
-
(1)定量分析(赤外吸収の絶対強度による定量、解析)
ピーク強度は固着した試料の形状に影響されます。
従って、解析については、特定波数のピーク強度比を用います。
(2)溶離液への不揮発塩の添加、および高濃度の揮発塩の添加
(3)高沸点の溶離液の使用(常温タイプはDMF等の極性溶媒は不可)
(4)低沸点化合物、熱に不安定な化合物の分析