概要
分取用GPC装置を用いた分別・精製事例を紹介します。高分子中の特定成分を構造解析するためには分取が有効です。
一般的に高分子の分子量は均一ではなく、分布を持っています。近年、高機能化を目的として、複数種の成分から構成される共重合体が盛んに研究されています。共重合体の場合、各種性質に影響する分子量、分子量分布に加え、組成分布やその分子量依存性も重要であり、分析するうえで特定成分の分離・精製が必要となっています。図1に共重合体の組成分布のイメージ図を示します。
分取の実例としてPHS(Polyhydroxystyrene)の高分子量成分を分取用GPC装置にて分別・精製し、大量の単分散試料を分取した事例を紹介します。
今回用いたPHSはホモポリマーですが、共重合ポリマーでも同様に分取を行うことが可能です。
分析条件
試 料 :PHS (Polyhydroxystyrene、Aldrich製, 436225-5G)
分 取 置 :LaboACE LC-7080 (日本分析工業製)
カ ラ ム :TSKgel G2000HHR (21.5mmI.D.×30cm) ×2本 (東ソー製)
溶 媒 :THF (安定剤不含)
流 速 :6.0mL/min
試料濃度 :5 mg/mL
表1に一般的な分析用GPC①と本技術資料で用いた分取用GPC②の測定条件の比較を示しました。分取用GPC②は分析用GPC①の250倍以上の試料を注入できるため、目的成分を大量に回収することができます。一方で、検出器のS/Nは分析用GPC①に対して低いため、分取した試料の正確な分子量を求めるためには分析用GPC①で評価する必要があります。
装置 |
カラムサイズ |
溶液濃度 mg/mL |
溶液注入量 mL |
ポリマー注入量 mg |
分析用GPC① |
7.8mmI.D.×30cm |
1.0 |
0.1 |
0.1 |
分取用GPC② |
21.5mmI.D.×30cm |
5.0 |
5.0 |
25 |
測定結果
図2に分取用GPC②のRIクロマトグラムを示します。
今回の試薬は20~27分の範囲(黒の網掛け部)で溶出しました。分取用GPC②で分子量を求めた結果を表2に示します。このうち、赤の網掛けの範囲(高分子量成分)を狙って分取しました。計算上、分取される成分のMnは4.3×104となります(表1)。しかし、先に述べたように、分取用GPC②の検出器のS/Nは分析用GPC①と比較して低いため、分析用GPC①にて正確な分子量を評価し、狙った分子量成分が分取できているか、確認する必要があります。
黒の網掛け部分(実測値) |
赤の網掛け部分(計算値) |
|
数平均分子量(Mn) |
9.1×103 |
4.3×104 |
重量平均分子量(Mw) |
2.0×104 |
4.7×104 |
分子量分布指標(Mw/Mn) |
2.2 |
1.1 |
図3(a)および(b)に分析用GPC①の測定による分取前後のRIクロマトグラムおよび微分分子量分布曲線を示します。分析用GPC①で評価した分取成分のMnは3.4×104で、ほぼ目的通りの分子量成分を分取できました。更に、低分子量成分が除去されたことでMw/Mnが小さくなりました。Mw/Mnが1に近づくと試料は単分散であるといえます。このように分取用GPC②を用いることで、目的とした分子量を単分散に近い状態で回収することができます。
今回の条件では、一回の分取で目的分子量の成分が3~5 mg得られました。これは、1H NMRや、赤外分光、ガスクロマトグラフィーなどが実施できる量です。本装置を使用すれば短時間で目的とする分子量成分を単分散に近い状態で分取し、構造解析を行うことが可能です。
主な適用分野
- 合成物の分離・精製
- 目的成分の分別
当社では、高分子材料の大量分取をはじめとした各種分析を受託しており、皆様の研究開発のお役に立ちたいと考えております。