はじめに
高分子は、無機材料や金属材料と異なり、柔らかく柔軟な材料と言えます。もちろん、中には硬くて脆い材料もありますが、それらの材料間の違いを生み出す大事な高分子の特徴があります。本シリーズでは、高分子らしさについて分析的な立場から取り上げます。学術的な正確さよりも、分かりやすさに重点を置きますので、一部、正確ではない記述があるかと思いますが、ご容赦ください。
ガラス転移温度は定数?
第一回目は、ガラス転移温度を取り上げたいと思います。
一般的に材料は低温では硬く、高温では柔らかくなります。無機材料や金属材料は融点を境に、低温で固体状態、高温で液体状態になります。これに対し、十分に分子量が大きい高分子では、融点の他にガラス転移温度というものがあり、ガラス転移温度を境に、低温では固体(ガラス状態)、高温では固体(ゴム状態)と、同じ固体でも性質が異なります。ガラス状態は他の物質で見られる現象ですが、高分子は簡単にガラス状態にすることができ、このガラス転移温度は高分子らしさを表す一つの特徴と言えます。ガラス転移を評価する代表的な方法を下記に記載します。
- ①DSC法 ガラス転移前後で比熱が変化することを利用します。
- ②TMA法 ガラス転移前後で熱膨張係数が変化することを利用します。
- ③PVT法 ガラス転移前後で密度の温度依存性が変化することを利用します。
- ④DMA法 ガラス転移前後で弾性率が変化し、位相差tanδがピークを示すことを利用します。
いずれもガラス転移温度を評価する手法ですが、得られた値は必ずしも一致しません。また、一つの手法の中でも、評価条件で変化します。
評価条件に影響をうける例を図1に示しました。ポリスチレンのDMA測定を、測定周波数を変えて評価した結果です。ガラス転移温度でtanδがピークを示すことから、ピーク温度はガラス転移温度を評価する一つの手法となっています。しかし、測定周波数を変えると、他の条件は同じであってもガラス転移温度が変化することが分かります。DMA以外の手法でも、例えば、昇温速度を変えると、ガラス転移温度は変わります。更に、同じ材料でも配向や熱処理などでもガラス転移温度が変化します。
このように、ガラス転移温度は必ずしも固定された値ではなく、幅を持っていることが分かります。 文献値と比較する場合は、測定方法や条件を合わせることが重要となります。尚、弊社では①~④の方法の何れでも評価することが可能です。